その代わり、融資条件などが緩やかで、すぐに融資に応じてくれることなどから、通常の金融機関から借りられない人や、急にお金が必要になった人などが、高金利を承知の上で頼ることになる。消費者金融は、一種の「駆け込み寺」だ。
民間銀行に対しても、同じような「駆け込み寺」がある。日本銀行(日銀)だ。
民間銀行が資金不足になった場合、一般的には、短期金融市場を通じて他の金融機関から資金を借り入れる。しかし、極端に資金繰りが悪化したり、大量の資金が必要になったりした場合、短期金融市場からの借り入れだけでは足りない場合がある。
万が一、銀行が資金繰りに行き詰まって破綻すれば、金融システム全体が大混乱に陥ってしまう恐れがある。そこで、日銀は資金繰りが苦しくなった銀行に対して、その求めに応じて資金を提供する「補完貸付制度」を用意し、金融システムの混乱を回避できるようにしている。
これは銀行にとっての「駆け込み寺」、消費者金融のような存在であり、その際に適用される金利が「公定歩合」(正式名称は基準貸付利率)なのである。同様のシステムは、アメリカを始めとして欧米各国にも存在している。
公定歩合はかつて、金融政策の中心となる「政策金利」となっていて、日銀はこれを上げたり下げたりすることで、金融引き締めや金融緩和を実施していた。しかし、1994年に制度が変わり、政策金利は短期金融市場の「無担保コールレート・翌日物」となり、「公定歩合」は表舞台から去ることになったのだ。
急な資金需要が発生した銀行に対して、緊急避難的に適用されることから、消費者金融と同様に、公定歩合の金利は高めに設定されている。2007年12月現在、「無担保コールレート・翌日物」の誘導目標が0.5%であるのに対して、公定歩合は0.75%。これは、資金繰りが苦しくなった銀行に対するペナルティーの意味合いがあるためなのだ。
表舞台から去った公定歩合だが、その重要性に変わりはない。その存在が改めてクローズアップされたのが、サブプライムローン問題が深刻化しているアメリカだった。
アメリカの中央銀行に相当する連邦準備制度理事会(FRB)は、07年8月18日、公定歩合を引き下げる決断をした。サブプライムローン問題に伴う銀行の資金繰りの悪化や、経営の悪化に対応する措置だった。
本来、こうした場合には政策金利(アメリカの場合はフェデラルファンド金利・翌日物)の引き下げが行われる。しかし、当時のFRBは、政策金利を引き下げるほどの事態ではないと判断し、公定歩合の引き下げという、いわば「2番目の手段」を使って、金融市場の不安感を払拭しようとしたと考えられているのだ。
FRBが公定歩合を引き下げた後、資金繰りに全く問題がないにもかかわらず、大手銀行は相次いで、公定歩合での資金の貸出を受ける申し出を行った。
銀行にとって、公定歩合による資金供給を受けるのは望ましいことではない。資金繰りが悪化していることを、利用者や他の銀行に知らせることになり、信用の失墜につながるからだ。
こうしたことから、資金繰りが苦しいのにもかかわらず、公定歩合による資金貸出の申請を我慢する銀行があり、これが結果的に銀行破綻につながる恐れがある。そこで、資金繰りに問題のない大銀行が率先して公定歩合による貸出を申請することで、貸出を受けやすい環境を整えようとしたのだった。
金融システムが安定していれば、公定歩合の出番はあまりない。公定歩合が注目され、表舞台に頻繁に登場する事態になった時は、金利が高い「消費者金融」に頼らざるを得ない銀行が増えていることを意味するだけに、要注意と言えるだろう。