同じ水でも、凍らせたり反対に沸騰させたりするなど状態が変われば、すぐに飲むことは出来ない。同様のことが、資産にも当てはまる。資産には株式や債券などの金融資産、不動産や美術品など様々なものがあるが、いずれも貨幣(現金)で購入したもの、つまり、貨幣が形を変えたものと考えられる。しかし、株券をコンビニに持ち込んでもおにぎり一つ買えないように、そのまま支払い手段として使えるとは限らない。
資産が支払い手段として、どの程度通用するかを示す尺度が「流動性」だ。最も高い流動性を持っているのは、貨幣(現金)だ。小さな買い物から巨額の不動産まで、貨幣で決済できない取引はほとんど存在しないだろう。貨幣はすぐに飲める「水」であり、流動性といえば貨幣そのものを示す場合も多いのだ。
これに対して、株式や債券などの金融資産の流動性は低くなる。時価5万円の株券であっても、コンビニで買い物ができないように、株式や債券などでは直接支払いをしたり、銀行の決済をしたりすることは事実上不可能であり、現金化することが必要となる。したがって、貨幣以外の資産の流動性は、現金化するための時間と費用で決定されることになる。
株式や債券などは取引する市場が存在していることから、比較的容易に売却相手を見つけて現金化できる。少し待てばとけて水になる「かき氷」のように、貨幣ほどではないが、ある程度の流動性を持っているのが株式や債券などの金融資産なのだ。
しかし、不動産となると流動性はかなり低くなる。売却相手をすぐに見つけることは困難であり、売却費用も大きくなるためだ。美術品や貴金属などについては、現金化には更に多くの時間と費用がかかり、場合によっては現金化そのものが出来ない場合もある。カチカチの氷のように、水に戻すには時間と手間がかかり、その流動性は極めて低いということになる。
不動産や貴金属などを大量に保有していても、手元に現金がなければコンビニでの買い物すらできないように、流動性の低い資産ばかりを保有していると、企業の資金繰りが行き詰まる危険性が出てくる。凍ったペットボトルだけでは、渇きに耐えられないように、企業の経営においても流動性の高い資産である水を一定量確保しておく必要があるというわけだ。
しかし、現金には利息が付かないように、流動性が高くなるほど、資産が生み出す収益は低下する傾向がある。したがって、効率的な企業経営の観点からは、株式や債券、不動産といった流動性の低い資産を多く持ち、流動性の高い資産は最低限に抑えることが求められる。つまり、流動性の確保と企業経営の効率化は、トレードオフの関係にあるのだ。
凍らせたペットボトルだけではなく、すぐに飲める水も用意しておけば、ウオーキングラリーの参加者から不満が出ることもなかったろう。流動性と収益性のバランスを取った資産構成を作ることが、企業経営の重要なポイントなのである。