今回の発表によれば、7~9月期には日本のGDPが実質値で前期に対して0.9%増、名目値では前期比0.7%増となりました。「実質GDP」という言い方は、物価変動による影響を差し引いてあることを意味しています。「名目GDP」は物価変動による効果も含めて考えているという意味です。
要するに、実質はミカンが何個売れたかを示す数字で、名目はミカンがいくら売れたかを示しているとお考えください。昨日も今日もミカンが1個しか売れなければ、実質でみたこの間のミカンの売り上げの伸び率はゼロ%です。ところが、昨日も今日もミカンは1個しか売れないけれど、今日は1個のミカンの値段が昨日の倍になっていれば、名目値でみたミカンの売り上げは倍増したということになるわけです。こうして、実質GDPはあくまでも数量がどう動いたかに注目しています。それに対して、名目GDPは金額の変化を追っている。その意味で、実質GDPは「モノGDP」、名目GDPは「カネGDP」と言い換えてもいいでしょう。
さて、ここまで来たところで、改めて7~9月期のGDPの数字に戻りましょう。実質で0.9%増、名目で0.7%増です。つまり、カネGDPの伸びがモノGDPの伸びを下回っているわけです。どうしてそうなるかといえば、要するにモノの値段が下がり続けているからです。これこそ、今、我々を痛めつけているデフレの正体です。経済活動はそれなりに拡大している。ところが、モノの単価が上がらないので、企業は、モノを売っても売っても、もうからない。だから、給料も上げられない。雇用を増やすことも出来はしない。
この状態をなんとかしたいということで、政府が各種のデフレ対策などを打ち出して来たわけです。そうした政策効果で、何といっても個人消費支出の伸びが回復して来ることに期待が集まって来ました。何にしろ、個人消費はGDP全体の6割以上を占めていますから、これが盛り上がらないことには、経済全体としての調子も本格的な復調は望み薄です。
そこで、個人消費の数字が今回どうなっていたかをみてみましょう。まず、実質すなわちモノGDPベースでみると、前期比1.2%増という数値でした。これはなかなかのものです。かりにこの同じペースで向こう1年間消費が伸び続けたとすれば、計算上、年間の消費増加率は5%近い値になります。少子高齢化の成熟社会で、消費がこれだけ伸びれば立派なものです。
ところが、残念ながらここで喜んでしまってはいけません。名目すなわちカネGDPの方の統計で個人消費の前期比伸び率をみると、これはたったの0.4%でした。モノGDPベースの伸びの3分の1にとどまっているのです。要は必死の安売りでモノの販売数量は伸ばしたものの、それに伴う収入の伸びはわずかだったということです。
この7~9月期は、エコカー減税狙いの駆け込み需要が自動車販売を押し上げたとみられています。猛暑でエアコン特需が盛り上がったという要因もあった模様です。ですが、いずれにしてもカネGDPでみる限り、事態は何ら変わっていないということです。エコカー減税狙いも結局は安値志向ですし、エアコンもそうそう高額品が売れたというわけではないでしょう。
今のような状況の下では、「実質」GDPで世の中をみていても、なかなか、その「実態」はみえて来ないということです。今回のGDP速報が、またしてもそれを我々に良く示してくれました。