それはそれとして、今回の解散に向けて消費税を巡る議論がかまびすしかったですね。消費税を上げるのか。上げないのか。すぐに上げるのか。もう少し待ってから上げるのか。消費税談義は、尽きるところがありません。
ちなみに、経済学の生みの親、イギリスの経済学者アダム・スミス(1723~1790)が、その大著『国富論』の中で次のように言っています。「消費への課税は国家による苦肉の策だ。」なぜかといえば、国々は、どうすれば所得格差に見合って、公平に国民に課税できるかが分からない。そこで、苦し紛れに、国民の消費に課税することを考えた。そうスミス先生はおっしゃっているのです。
『国富論』が発行されたのは1776年、18世紀のことです。当時の人々は、よほど、所得隠しが上手だったのでしょうね。
大先生によれば、国々の政府は、人々の所得水準をどうしてもうまく把握できない。そこで、次のように考えたというのです。人々の消費パターンは、その所得の大小を反映しているに違いない。だから、彼らが買う物に税金をかけておけば、間接的に、所得水準に対応した課税ができる。この発想に基づいて、消費財への課税が発明された。これが、スミス先生の解釈なのです。
大先生のこの解釈には、とても重要な認識が込められています。それは要するに、消費に課税するなら、金持ちが買いそうな高額商品には高い税金をかけ、低所得者の生活必需品には低い税金を適用するということです。そうでなければ、所得課税への代替手段としての消費課税、という考え方は成り立ちませんものね。
今日の租税制度の設計者たちには、経済学の生みの親のこのお言葉をしっかり押しいただいた上で、今後の消費税論議に臨んでもらいたいと思います。
スミス先生は、次のようにもおっしゃっていますよ。
「生活必需品の消費に課税するなら、それに見合った賃金上昇を確保する必要がある。……さもなくば、低賃金労働者は家庭を維持することができなくなり、結果的に労働供給が不足することになりかねない。」何たる明快さでしょう。何たる合理性でしょう。これ以上、言うべきことは何もありませんね。
かくして、政策論議に携わる方々は、何はともあれ古典をちゃんと読む必要があります。消費税を高くしていくなら、贅沢グッズと生活グッズでは税率をきちんと変える。消費課税を強化するなら、その前に働く人々の賃金をきちんと確保しておけ。答えは既に出ているのです。