皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。新年早々、コラムの更新が遅れてしまって大変申し訳ございません。
遅れた理由は、もう一つの締め切りです。と言っても、筆者が他の原稿の締め切りを守るために、このコラムの執筆を犠牲にしたわけではありません。ゼミの学生さんたちと一緒に、彼らの締め切りに立ち向かっていたのです。
筆者が勤務する同志社大学大学院のビジネス研究科では、学生さんたちの卒業要件として「ソリューション・レポート」というものの提出を求めています。「修士論文」に相当するものです。卒業を懸けた論文提出に向けて、最終的な内容の吟味と指導が大詰めの大詰めのまた大詰めを迎える中、申し訳ない思いを募らせながら、ついつい、多くの立ち遅れが発生してしまった次第です。ひたすら、ご容赦をお願い申し上げるほかはありません。
こうして、「締め切り」という言葉が目の前を踊り舞う状態に向き合っていましたら、もう一人、きっと、この言葉に日々うなされているに違いない人のイメージが頭の中に浮かんできました。その人の名はテリーザ・メイ。イギリスの首相です。
メイ首相にとっての締め切り日は、2019年3月29日です。この日をもって、イギリスはEU(欧州連合)から離脱することになっています。ご存じ、「Brexit(ブレグジット)」デーがこの日です。EUという巨大で様々な政策・制度の枠組みが確立した集団から出ていくというのは、実に大変な作業です。実際にこのプロセスが始まるまで、誰も、これがどれほど大変なことであるかを、本当の実感としては分かっていなかったと思います。
ここで、少し想像力をたくましくしてみて下さい。もしも、今、皆さんが生まれ育って、今も住んでおいでの県や市が、日本から離脱することになったら、何がどうなるでしょう。つまり、日本国内のどこかの地域が、ブレグジットならぬ「ジャパグジット(Japaxit)」を決意するわけです。まずは、その地域と「その他日本」との間に国境が出来ます。法律も何もかも、作り直さなければいけません。にわかには、とうてい思いつかない様々なルールや仕組みを再設定する必要が出てきます。
気が遠くなりますよね。でも、だからといって、ジャパグジットを諦めるのか。脱日本がどうしても悲願であるなら、人々は、艱難辛苦を乗り越えて、その悲願達成にこぎつけるはずです。技術的なハードルが高過ぎる。だから、悲願達成を諦める。それはおかしいですよね。
イギリスも、ここからが腕の見せどころです。実は、19年3月29日という締め切りを、事実上、2年ほど後ろ倒しにするという構想が浮上してきてもいます。学位論文にも、当面の締め切りにどうしても間に合わなければ、半年後、あるいは1年後の再提出という道が残されています。締め切りは、守れなくても諦めない。それが肝心……なぁーんて。