黒田東彦日本銀行総裁の二期目の任期がスタートしました。
再任後初の記者会見で、黒田総裁はそろそろ金融の「異次元緩和」も店仕舞いじゃないですか、その世界からの出口を探り当てるべきタイミングじゃないですか、と盛んに質問されました。それに対して、黒田さんは、ひたすら「物価目標の実現にはなお距離があり、検討する局面にはない」と答え続けたのでした。
これしか言わない。これしか考えてない。改めてこの黒田節を聞いたところで、筆者はこの人に新しい名前をプレゼントすることにしました。その名は「とおりゃんせ男」です。
皆さんは、「とおりゃんせ」の童歌をご存じでしょうか。いろんなバージョンがあるようですが、筆者が子どもの頃から知っているのは次のものです。
「とおりゃんせ、とおりゃんせ。ここはどこの細道じゃ。天神様の細道じゃ。どうぞ通してくだしゃんせ。この子の七つのお祝いに、お札を納めに参ります。行きはよいよい、帰りはこわい。こわいながらもとおりゃんせ、とおりゃんせ」
よく考えれば、とても不気味なお歌ですよね。行きはいいけど、帰りは怖い。ひょっとすると、帰ってこられなくなるかもしれない。でも、どうぞお通りなさいよと言われた以上、しかも大事な用事がある以上、通っていかなければならない。
これこそ、まさに黒田さんの状況です。「2%の物価上昇実現」目標を掲げて、今まで誰も踏み込んだことのない「異次元緩和」の世界に踏み込んだ。「2%のお札」を物価の神様に首尾よくお納めするには、どうしても、異次元の細道を通らなければならない。2013年4月には、「行きはよいよい」とばかりに、「2年で2%達成!」と叫んで、異次元への細道に突入したのでした。
ところが、あれから5年、いまなお、物価の神様に巡り会えることなく、異次元の細道をさまよい歩いているのです。
始めてしまったことをやめるのは、実はとっても難しい。まさに、「行きはよいよい、帰りは怖い」のです。
実際に、今、黒田さんが異次元の細道から帰ってこようとすれば、何が起こるでしょうか。起こることは目に見えています。日本国債の相場も、日本の株価も暴落してしまいます。国債相場も株価も、いまや日銀が一手に支えていると言ってまったく過言ではありません。大量に国債を買い、大量に株を買う。そのことを通じて、日本経済目掛けて大量のカネを流し込む。これが「異次元緩和」です。
始めてしまったこの「異次元緩和」を日銀がやめる。国債市場からも株式市場からも日銀がいなくなる。そうなったら、二つの市場は完全にはしごを外された格好になります。はしごを外されたら、起こることは、急激落下しかありません。
こうしてみれば、黒田さんは帰りが怖いどころか、帰りは禁止の細道に踏み込んでしまっているのです。一体どうするつもりでしょう。