「我々は労働者を求めた。ところが、やって来たのは人々だった」戦後スイスを代表する作家の一人、マックス・フリッシュの言葉です。
今、日本の外国人労働者受け入れ体制が大きく変わろうとしていますね。関連法案の審議をどんどん進めてしまおうというので、政府・与党が躍起になっています。具体的には、「相当程度」の知識や経験を持つ外国人向けに「特定技能1号」、さらに熟練度の高い技能を持つ外国人向けには「特定技能2号」の在留資格を設けることが検討されています。
1号資格保持者の在留上限は5年で、家族の帯同は認めないという構想です。ただ、所定の試験に合格して2号資格に格上げになると、上限なく在留期間を更新できるようになるそうです。家族帯同も認められるのだといいます。これらの方向で法改正を進めていき、2019年4月からの施行を目指す。それが政府・与党の方針です。あまりの性急さに野党が強く抵抗していることは、ご承知の通りです。
猛烈ダッシュの制度づくりは、言うまでもなく、人手不足対応のためです。人に関する日本の門戸は、今まで実に固く閉ざされてきました。その禁断の扉が、ついに開かれ始めるというわけです。そのこと自体は、結構なことです。グローバル社会の有力な一員だと大見得を切りながら、人については事実上鎖国しているなどというのは、二枚舌も甚だしいことです。この点が是正されることに異論はありません。
ですが、今のこの展開はあまりにも動機が不純です。人手が足りないから、慌てて、にわか仕立ての入り口を用意する。少し頑張って頂ければ、事実上の永住もありでございます。とりあえず、何でもありで人を囲い込もうとしているのです。
マックス・フリッシュが言う通り、こうした呼び込みに応えてやって来るのは、人々です。「人手」という名前の労働マシンではありません。血も肉も汗も涙もある人々が、突然開かれた扉から入ってくるのです。希望を抱き、期待に胸を膨らませてやって来るのです。そんな人々に、やれ「人手1号」だ「人手2号」だなどというレッテルを貼って、人手不足の現場に送り出していくというのです。
人手不足は、いずれ解消するかもしれません。ですが、だからといって、その時点で都合良く人々も消滅するわけではありません。そうなった時、政府・与党はどうするつもりなのでしょう。その時はまた、制度を変えて、「やって来た人々」を消去するための工夫を凝らすのでしょうか。
人を「人手」としてしか見られないのであれば、そんなことにもなりかねません。恐ろしいことです。