今回のコラムでは、お約束通りで行くなら、経済活動の三つ目の三角形についてご一緒に考えるべきところです。前回は「地球・国家・地域」を三辺とする経済活動の三角形を検討しました。前々回のテーマが「成長・競争・分配」を三辺とする経済活動の三角形でした。順当に行けば、今回はもう一つの経済活動の三角形に注目することになります。
ただ、この間、日本では大阪で「大阪都構想」に関する住民投票があり、アメリカでは大統領選挙がありました。そこで、今回はこれらの二つの投票にフォーカスしてみたいと思います。三つ目の経済活動の三角形については、後日、改めて取り上げることにさせて頂きたいと思います。それまでの間、三つ目の経済活動の三角形の三辺が何と何と何であるかについて、思いを巡らせておいて頂ければ幸いです。
さて、大阪都構想に関する住民投票と、アメリカ大統領選という二つのお題を束ねるものは何でしょうか。同じ投票と言っても、あまりにもスケールが違うから、これらを「二題噺」に仕立てることには、少々無理があり過ぎだろう。そのように思われる方が多いかもしれません。ですが、そうでもありません。
この二題に通底するキーワードは何か。それは「分断」だと筆者は思います。大阪都構想は、大阪市民を「特別区民」に分断し、分断状態で大阪府の傘下に取り込んでしまおうという企みでした。いわば分断統治の論理です。あれは、市民運動の力と結束を萎えさせるための陰謀だった。筆者はそう見立てています。この目論見は不発に終わりました。二回に渡って仕掛けられたこの落とし穴に、大阪市民が転落することはありませんでした。分断作戦は失敗に終わったのです。
ただ、完敗に終わったとは言い切れません。なぜなら、住民投票の結果は賛成49.37%、反対50.63%、票差1万7167で、実に僅差の反対派勝利でした。つまり、制度的分断は実現しなかったものの、大阪市民の魂には分断の傷跡が残ってしまったわけです。住民投票というものには、往々にしてこのような結果をもたらす怖さがあります。顕在化させないで済むなら、それを回避すべき対峙の構図を顕在化させてしまう。そのような力学を秘めているのが、住民による直接投票というやり方です。
スイスのように、多くのことを絶え間ない住民投票で決めている場合には、人々がそのことに慣れているので、結果について根に持たない風土が定着しています。ですが、そのような文化が形成されていない状況では、賛否拮抗するテーマを住民投票に委ねると、人々の間に要らざる壁を打ち立てることになります。このことを、実に生々しい形で浮き彫りにしたのが、ブレグジットすなわち英国のEU離脱に関する国民投票でした。あの国民投票が残した分断の爪痕には、今なお、生々しくも痛々しいものがあります。大阪市民の皆さんの中に、あれと同じ亀裂が残っていかないことを祈るばかりです。
アメリカ大統領選においては、現職の大統領が極めて意図的に、極めて露骨に分断を煽り上げて行きました。我が陣営に属さない者たちは人間に非ず。そのような構えで排除の論理を振りかざし、手当たり次第に情報操作を繰り出し続けました。誹謗中傷を重ねに重ね、有権者たちの相互不信と敵愾心をヒートアップさせることに、ひたすらまい進して来たのです。
この低俗な手練手管が功を奏さず、選挙結果がジョー・バイデン前副大統領の勝利と出たことは、アメリカにとっても世界にとっても一安心でした。もっとも、ドナルド・トランプ氏はまだ敗北を認めず、不正選挙で訴訟を起こすなどと息巻いています。ですが、もはや、選挙結果は確定したと言って間違いないところでしょう。
というわけで、やれやれです。ですが、この場合も、大阪都構想の場合と同様、魂の分断は人々の中に、そして、新大統領の頭上において重苦しく燻っています。
洋の東西における二つの魂の分断問題が、それぞれの経済社会を取り返しのつかない形で千切り破っていく。どうか、そうなりませんように。