元祖ヒーロー・ヒロインたちの第二弾。歌舞伎ならではのドロドロの人間関係、因果応報の倫理観、浮き世のしがらみが面白い! 歌舞伎のキャラクターには、人間の持つあらゆる性格や感情、行動が凝縮されているのだ。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
福岡貢(ふくおかみつぎ)
紛失していた宝刀を御家のためにやっと探し出したものの、手渡そうと出向いた先で主人と行き違ったのが運の尽き。恋人からは偽りの愛想づかしをされ、仲居からは意地悪をされ、手渡す前にストレスがたまりにたまる。追い打ちをかけるような刀の取り違え騒動のなか、仲居と揉み合う拍子に刀の鞘(さや)が割れ、あとは妖刀に操られるようにして人々を斬殺。実際の事件を舞台化。『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』(1796年初演)。
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猿源氏(さるげんじ)
鰯(いわし)売り。ある女に一目惚れして恋わずらい中。見兼ねた知恵者の父から一計を授けられ、大名を装い彼女のいる廓(くるわ)へと乗り込んだ。運命の人の名は蛍火(ほたるび)。トントン拍子に進むうち緊張も解け、ほろ酔い気分でいつしか夢の中へ。ところが寝言で思わず鰯の売り声が出てしまう。しかし、実は蛍火がその声に惹かれて城を飛び出したいわく付きの姫であったので、晴れて相思相愛のハッピーエンド。三島由紀夫作。『鰯売恋曳網(いわしうりこいのひきあみ)』(1954年初演)。
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墨染(すみぞめ)
実は遊女の姿を借りた小町桜の精。雪景色の中にすっくと立つ桜木からボーッと立ち現れる姿は何とも幻想的。天下を取ろうと狙う大伴黒主(おおとものくろぬし)に恋人を殺された恨みから、その野望を打ち砕かんと遊女の姿で現世に舞い降りる。お互いただならぬ気配に最初は腹の探り合い、いよいよ本性を見抜くと「ぶっかえり」という衣裳の仕掛けで正体を現して対決。『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』(1784年初演)。
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お初・徳兵衛(おはつ・とくべえ)
遊女と手代(てだい)の心中事件。政略結婚を持ちかけられるほど見込まれた徳兵衛だが、恋人お初のために断固拒否。既に継母(ままはは)へ渡ってしまった持参金をいったん取り返したものの、人が良いので友だちへ貸してしまい、だまし取られたうえ、逆に汚名まで着せられて集団リンチを受ける。自分の悪口を縁の下でじっとこらえ聞く徳兵衛の無念は、他人に見られぬようそっと差し出されたお初の足へと伝わってゆく。『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)』(1953年宇野信夫版初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 2】