元祖ヒーロー・ヒロインたちの第二弾。歌舞伎ならではのドロドロの人間関係、因果応報の倫理観、浮き世のしがらみが面白い! 歌舞伎のキャラクターには、人間の持つあらゆる性格や感情、行動が凝縮されているのだ。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
船津幸兵衛(ふなつこうべえ)
明治維新の波にのまれた没落士族。慣れない商売で破産、妻は三人の子を残して病没、細々とした筆作りでしのぐという絵に描いたような極貧生活を送る。降ってわいた金運も、あこぎな金貸しの取り立てによって泡と消え、無理心中しようと子に刃を向けた瞬間、錯乱状態となる。川に飛び込んだところを救出され、正気に戻ると朗報が舞い込んできた。これみな水天宮で買った額のご加護。『水天宮利生深川(すいてんぐうめぐみのふかがわ)』(1885年初演)。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
佐々木盛綱(ささきもりつな)
盛綱・高綱兄弟は『真田太平記』で有名な真田信幸・幸村兄弟がモデル。弟と敵対する立場に置かれた兄の元へ、弟の討死(うちじに)の知らせが入り、首実検の役をおおせつかる。出されたのは他人の首だった。にもかかわらず、幼い甥(高綱の子)が偽首(にせくび)と知りながら父と慕って切腹する姿を見た時、叔父盛綱の出した答えとは。守られるのは乱世にはびこる嘘か、生死をかけた親子の絆か。『近江源氏先陣館(おうみげんじせんじんやかた)』(1770年初演)。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
深雪(みゆき)
夜風に飛ばされた帽子を若武士に拾われて始まる波瀾万丈の人生。武家の息女から旅瞽女(ごぜ)への流転の人生を支えたのは、扇にしたためられたその男の歌一首という、すれ違いばかりのメロドラマ。泣いてつぶれたまぶたの向こうに恋い焦がれた男がいるとも知らず、思いを込めて琴を演奏する姿が悲しい。体面に縛られて言葉すらかけてやれない男の弱さに喝!『生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)』。(初演年不詳)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
智籌(ちちゅう)
蜘蛛(くも)の精。原因不明の熱病で療養中の源頼光(みなもとのらいこう)の前に、物音ひとつ立てずいかにも怪しい僧が現れた。素性(すじょう)を尋ねると、比叡山の高僧で病気回復の祈祷(きとう)をするために来たという。始めようとしたその時、灯影(ほかげ)に異形が映し出されてしまい正体露見。数珠(じゅず)を口にあてがって、もののけの大きな口が裂けるかのような凄まじき型は必見。最後はつわもの揃いの四天王に退治される。『土蜘(つちぐも)』(1881年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 2】