元祖ヒーロー・ヒロインたちの第二弾。歌舞伎ならではのドロドロの人間関係、因果応報の倫理観、浮き世のしがらみが面白い! 歌舞伎のキャラクターには、人間の持つあらゆる性格や感情、行動が凝縮されているのだ。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
河内屋与兵衛(かわちやよへえ)
油屋の放蕩(ほうとう)息子。継父(ままちち)が元番頭で遠慮がちなのを幸いにわがまま放題。見兼ねた実母から勘当されたため借金返済に困窮し、日頃から面倒見のよい女将(おかみ)のお吉を頼って隣の油屋へ。しかし親切心を夫から邪推されたお吉が、心を鬼にして申し入れを拒むと、逆切れした与兵衛は、油まみれになりながらお吉を斬殺する。現代的で不条理なこの衝動殺人は江戸の人には不人気だったのか、後年になって復活。『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』(1907年復活)。
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一条大蔵卿(いちじょうおおくらきょう)
妻の常盤御前(ときわごぜん)の元夫は源氏。しかし時の権力者、平清盛は彼女を愛しながら、スケープゴートとしてこの男に嫁がせた。趣味三昧(ざんまい)でアホの公家と見くびっていたから。とはいえ館には猜疑心(さいぎしん)の強い清盛が送った平家のスパイと、常盤の二心(ふたごころ)を疑う源氏のスパイが潜入。密告を阻止したのは凛々しく変身した大蔵卿だが、争乱の世を生き抜くための処世術として再びアホの道を貫く。『鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)』(1732年初演)。
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重の井(しげのい)
乳母。遠方へ嫁入りする幼い姫(通称「いやじゃ姫」)がご機嫌斜めで手をこまねいていたところ、双六(すごろく)を持った馬子(まご)が慰みに召し出される。馬子とは荷物などを馬に乗せて歩く、卑しいとされた職業。それがかつて手放した我が子と知って驚くが、忠義と母性のはざまで揺れながら、しっかりと抱きしめてやることさえかなわず、傷ついた我が子の後ろ姿を無力に見送るしかなかった。『恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)』(1751年初演)。
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駒形茂兵衛(こまがたもへえ)
取的(とりてき 力士養成員)。一度は断念した夢を再び追いかけようと上京。一文無しでフラフラになりながら茨城の取手に通りかかると、宿屋の二階から泥酔する酌婦(しゃくふ)お蔦が声を掛けた。天涯孤独の身上話を軒先でしていると、同情したお蔦が櫛(くし)や金を恵んでくれた。その恩を十年間一日たりとも忘れたことはなかった。ヤクザに成り下がろうともお蔦に報恩する姿は、果たせぬ夢の横綱に劣らぬ格好良さ。『一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)』(1931年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 2】