元祖ヒーロー・ヒロインたちの第二弾。歌舞伎ならではのドロドロの人間関係、因果応報の倫理観、浮き世のしがらみが面白い! 歌舞伎のキャラクターには、人間の持つあらゆる性格や感情、行動が凝縮されているのだ。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
武智光秀(たけちみつひで)
明智光秀のこと。小田春永(織田信長)の機嫌を損なったため扇で叩かれたり、馬盥(ばだらい)で酒を飲まされたり、妻の献身を侮辱(ぶじょく)されたり、徹底的にいじめ抜かれ、さらに領地没収の憂き目をみていよいよ春永の暗殺をもくろむ。『時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)』(1808年初演)。謀反の罪を、母から死を以ていさめられ、真柴久吉(羽柴秀吉)と戦場での決着を誓い合う。『絵本太功記(えほんたいこうき)』(1801年初演)。
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彦市(ひこいち)
熊本在住の嘘つき名人。ただの釣り竿を望遠鏡と偽って天狗(てんぐ)の子をだまし「隠れ簑(みの)」を強奪。さらにはボンクラな殿様に、河童(かっぱ)を釣り上げるという空約束をして、鯨肉や天狗面を城から持ち出させて横領する。父天狗にしかられた子天狗との「隠れ簑」争奪戦をユーモラスに繰り広げる民話劇。方言で書かれたせりふがなんとも牧歌的な木下順二の作。その後に続く木下民話劇の上演第一作。『彦市ばなし(ひこいちばなし)』(1954年初演)。
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小万(こまん)
三五郎という情夫(いろ)の金の工面のため、浪人薩摩源五兵衛(さつまげんごべえ)にとことん入れあげさせた凄腕の芸者。源五兵衛へのご機嫌取りのため、腕に「五大力(ごだいりき)」の彫物まで仕込んだが、後に「三五大切(さんごたいせつ)」と書き変える。百両を貢いだ後で、利用されたことを知った源五兵衛は怒り心頭(しんとう)に発し、復讐の鬼と化してむごたらしい殺戮(さつりく)を重ねる。無惨に殺された小万の生首の前で食膳につこうとする源五兵衛は、常軌を逸して何とも不気味。『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』(1825年初演)。
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粂寺弾正(くめでらだんじょう)
上司の結婚延期の理由を探りに使者として先方へ赴く。許嫁(いいなずけ)は髪が逆立つ奇病にかかりふさぎ込んでいた。どうしたものかと何げなく毛抜でひげを抜いたところ、不思議や、鉄の毛抜が立って踊り出す。銀の煙管(きせる)は踊らない。ヒントは磁石。謎を科学的に解明する姿はまさしく江戸版ガリレオ。重要アイテムの毛抜は遠くからもよく見えるように特大サイズ。『雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)』(1742年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 2】