自分が子育てをする地域で、仲間とともに家族にとっても大切な「食」を扱う仕事を自ら起こし働けば、そこには新たな生き方が生まれる。そう考える女性たちが運営するのが、東京都国立市で仕出し弁当を製造、販売する〈ワーカーズ・コレクティブ とまと〉だ。
「気持ちが穏やかになる職場」
〈とまと〉の1日は、朝7時半に始まる。前日に下拵えした食材を、手際よく調理していく。ご飯は白米と玄米の2種類、おかずは日替わり弁当用に5種類用意される。そぼろ丼、ドライカレーなどもある。
私たちが訪ねた朝10時前、住宅街の一角にある広い厨房では、6人が調理と弁当箱に料理を詰める作業をしていた。3人が料理を仕上げ、あとの3人が注文札を見ながら弁当箱をセットしていく。
「青菜、いけそう? かき揚げはどう?」
作業の進行を確認するのは、代表の遁所(とんどころ)朋江さん(51)。この日の段取り担当として、常に全体を見渡し、声をかける。
ある程度、調理が終わった10時頃にもう1人、少し年配のスタッフが現れた。
「立ち上げメンバーの角田さんです」
と、遁所さんが教えてくれる。
角田光子さん(72)は、1993年に〈とまと〉を立ち上げたメンバーの1人で、体力的にフルタイム労働は難しくなった2021年春からは、アルバイトとして働いている。
「元気なうちは、この仕事を続けたいです」
と、今も意欲は満々だ。ベテランの存在は貴重で、さりげないサポートが皆の仕事運びを円滑にする。
そんな角田さんを「国立の母」と慕うのは、遁所さんと二人三脚で今の〈とまと〉を牽引する渡辺朋子さん(56)だ。遁所さんは渡辺さんのことを「同志」と呼ぶ。
「1年目は、弁当を配達するアルバイトとして入ったんですが、料理が好きだし、『おいしい!』という反応を聞けるのも魅力で、もっといいものを、と工夫を重ねるうちにここまで来ました」
と、渡辺さんは微笑む。
7人それぞれが作業をこなしていくなか、「真んなかで火にかかっている鍋をみて〜」、「恭子ちゃん、刻み作業は私が入るから、ご飯の担当代わって〜」と、時々、遁所さんの快活な声が厨房に響く。
「恭子ちゃん」とは、若手のメンバー、岩崎恭子さん(44)のことだ。
「料理は苦手ですが、他人に雇われるのではなく、すべて自分たちでできることが魅力で、続けています」
そう話す岩崎さんは、子どもを保育園に預けて、フルタイムで活躍する。
この日働いているなかで一番若手の大森美帆さん(39)は、遁所さんにスカウトされて、約2年前にメンバーになった。最初は子育てが忙しく昼12時半までの勤務だったが、今は1日働いている。
「子どもが病気の時は、勤務時間を調整してもらえるし、働きやすいんです」
と大森さんは言う。
10時半過ぎ、日替わり弁当「さわらの梅ドレッシングと麻婆茄子」120個が完成。店に直接来る客の分を除いたものを車に積み込んで、2人が配送に出る。残りのメンバーは、注文のあったそぼろ丼作りや店頭受付、翌日の仕込みに取りかかる。
〈とまと〉の1日は、相当な重労働だ。それでも遁所さんはこう言い切る。
「体は疲れても、気持ちがこんなに穏やかになる職場はないんです」
好きでやりがいのある仕事を、気心の知れた仲間とともに作り上げ、自信を持って地域の人々に届けられる充実感が、遁所さんにそう言わせるのだろう。