以前は価格競争を意識していたが、今は自分たちの弁当の味と質を評価し、値段に関係なく利用してくれる客を対象に、採算の合う価格での販売に徹する。「家計の延長線レベルの規模のお金を扱うようにしました」というほど、コンパクトな事業にしたおかげで、経営も黒字になったという。ぷろぼの工房が、法的な縛りの少ない一般社団法人で、依頼に応じてできる仕事を請け負いながら、地域で必要とされる活動を自ら生み出している組織であることも、新生〈とまと〉の働き方にプラスの影響を与えているようだ。
家庭と食と生きがいを守る
新生〈とまと〉は、現在、遁所さんと渡辺さんの中堅2人と若手2人、計4人のメンバーを中心に、7人のアルバイトを加えて活動している。メンバー4人はぷろぼの工房に、一口1万円の基金(一般社団法人のため、「出資金」ではなく「基金」)二口を納入。ぷろぼの工房のメンバーとして、月曜日から金曜日までの毎日、130食前後の弁当を作り、販売する〈とまと〉の事業に携わる。ぷろぼの工房本体とは職種が大きく異なるため、日常の経理は別にしている。
「メンバーは、交代で週に3〜4日、働いています。アルバイトは週に2〜3回、入ります。それぞれの都合でシフトは調整しています」
体力や子育て、家庭の状況などに合わせて、勤務時間を決めている。賃金は時給制だ。
日替わり弁当のメニューは、毎月、遁所さんと渡辺さんが考える。作る弁当には、生活クラブ生協の食材を使い、ワーカーズ・コレクティブならではのこだわりをみせる。
「安心・安全の食材で、不必要な食品添加物は使わず、基本的に手作りしています。ちょっとした漬物以外は、既製品も使いません」
と、遁所さん。
〈とまと〉の存続を果たした遁所さんは、「80歳になるまで、がんばろうかなぁ」と、笑顔を浮かべる。
「〈とまと〉は地域で必要とされている事業所だと思うので、仲間を増やすことができれば、(さらに次の世代へ)引き継いでいきたいと思っています。以前は、それが難しいと思っていましたが、最近少し考えが変わりました。家族を大切にしながら、地域ともつながれる事業をしたいと思っている人はいるんだと感じています」
統合先のぷろぼの工房が掲げる「働くことは、生きること」というモットーは、そんな女性たちの思いを表している。代表の藤木さん自身、「何々ちゃんのお母さんとか、誰々の妻とかではなく、自分の名前で活動できる場がほしい。そう感じて、30代でワーカーズ・コレクティブを創りました」と語っているように、妻や母親として以外の生きがいや、地域での活躍の場が必要な女性は、大勢いるはずだ。それは今や、女性に限ったことでもないかもしれない。
「皆、何歳になっても自分を生かせる場が必要なんじゃないでしょうか」
と、藤木さん。〈とまと〉の創立メンバーでアルバイトとして働き続ける角田さんも、「この歳になっても、行く場所があってよかったと思います。夫が赴任しているベトナムへ行くのも、やめました」と、笑う。
「〈とまと〉の活動を通して、自分たちが子どもを育てている地域で、いい仕事ができる環境をつなげていけたら、と思います」
遁所さんは今、心からそう思う。
ワーカーズ・コレクティブ とまと
設立年 : 1993年(ぷろぼの工房への統合2021年)
人数 : 組合員4人、アルバイト7人
事業内容 : 仕出し弁当製造・販売
モットー : 地域で仲間と「食」に関わるいい仕事をする