レストランの竈で調理するクラウディア。撮影:篠田有史
季節の野菜を食べ、穀物を育てて保存し、家畜を飼い、竈に薪をくべて調理をしてきた先住民は、環境にほとんど負荷をかけることなく、生活してきた。それが大量生産・大量消費の資本主義経済の広がりと共に、変質していく。大規模農園が、農薬や化学肥料を使って安いものを効率よく大量に生産し、スーパーマーケットなどに卸すようになると、政府の補助金を得て真似をする先住民農民も現れる。その結果、自然と共生する暮らしが崩れ、土地は痩せていき、かつて先住民の村ではほとんど見られなかった生活習慣病を患う人も出てきた。人々の健康が損なわれ、環境破壊につながるゴミ問題も生まれた。クラウディアは強調する。
「今“ゴミ”として捨てられている食物の大半は、“利用できるもの”なんです。例えば、主食のトルティージャ(トウモロコシの実を挽いたもので作る薄い円形のパンのようなもの)は、食べ残しが捨てられたりしていますが、時間が経って少し固くなっても、竈の上でトーストすれば、トスターダ(トーストしたもの、の意)にできます。保存が利く携帯食として便利なものです。それがさらに固くなり、そのままでは食べられないとなれば、火にかけたコマル(素焼きの平たく大きな皿)に載せて香ばしく焼き、お湯に入れて“トウモロコシ・コーヒー”にします。それでも余ったら、家畜の餌にすればいいんです」
固くなってきたトルティージャは、トーストして「トスターダ」として食べる。日本では、これを小さく砕いたものを、「トルティーヤ・チップス」と呼んでいる。撮影:篠田有史
先住民の生活の知恵を、クラウディアは自らのレストランで実践している。共に働くのは皆、先住民の若い女性だ。
「私のレストランは、ずっと過小評価されてきた先住民女性の仕事がきちんと認められ、彼女たちが夢を抱いて生きられるようになるための協同プロジェクトなんです」
地域に広がる連帯
サンクリストバルとその近郊には、クラウディアが「同盟者」と呼ぶ仲間が大勢いる。植林、有機農業、困窮者支援、女性支援、伝統文化の継承など、多様な活動を展開する個人・組織が連帯することで、自然と共生する、持続可能で豊かな地域経済を築くことを目指す。
「クラウディアとは、3年ほど前にスロー・フードの取り組みをしたことで、意気投合しました」
そう語るのは、NGO「コレクティーボ・プラン・ビオマ」を運営するダリネル・バジーナス(37)だ。二人はボランティアと共に市場をめぐり、形が悪い、少し傷んでいるといった理由で廃棄されていた野菜を集めた。
「それを使ってクラウディアが料理を作り、病院や町の広場で振る舞うことで、もう使えないと思っているものでもおいしく食べられることを、人々に伝えました。それから、地域で自然と共生する形の農業を行うために、このコミュニティ・ガーデンを作ったんです」
私たちが訪れたのは、町の北部にある教会の脇でコレクティーボ・プラン・ビオマが運営するコミュニティ・ガーデンだ。近隣の住民が有機野菜を育てている。自宅の生ゴミもここへ運んできて、コンポスト用容器に入れて堆肥を作り、利用する。
「コレクティーボ・プラン・ビオマ」を率いるダリネル・バジーナス。パンデミック前は、日本からの若者ボランティアとスロー・フードの活動をしたこともある。撮影:篠田有史
「ゴミ問題の一部が解決されます」と、ダリネル。続けて、「ここでは、ほかの同盟者たちの活動も行われているんですよ。今日はチアパス高地の村々から先住民女性が集まり、民族衣装の刺繡について学んでいます」と、教えてくれる。
連帯経済
様々な社会運動と結びついた形で、人々が連帯して、社会の分断や貧困を克服し、民主主義と平等の実現や、環境保護などを目指す活動を通して築く経済

スロー・フード
伝統的な食材や料理、質のよい素材を提供する小生産者らを守り、消費者に味の教育を進めることで、おいしく健康的で、環境に負荷を与えず、生産者が正当に評価される食文化を広める運動
