「今“ゴミ”として捨てられている食物の大半は、“利用できるもの”なんです。例えば、主食のトルティージャ(トウモロコシの実を挽いたもので作る薄い円形のパンのようなもの)は、食べ残しが捨てられたりしていますが、時間が経って少し固くなっても、竈の上でトーストすれば、トスターダ(トーストしたもの、の意)にできます。保存が利く携帯食として便利なものです。それがさらに固くなり、そのままでは食べられないとなれば、火にかけたコマル(素焼きの平たく大きな皿)に載せて香ばしく焼き、お湯に入れて“トウモロコシ・コーヒー”にします。それでも余ったら、家畜の餌にすればいいんです」
先住民の生活の知恵を、クラウディアは自らのレストランで実践している。共に働くのは皆、先住民の若い女性だ。
「私のレストランは、ずっと過小評価されてきた先住民女性の仕事がきちんと認められ、彼女たちが夢を抱いて生きられるようになるための協同プロジェクトなんです」
地域に広がる連帯
サンクリストバルとその近郊には、クラウディアが「同盟者」と呼ぶ仲間が大勢いる。植林、有機農業、困窮者支援、女性支援、伝統文化の継承など、多様な活動を展開する個人・組織が連帯することで、自然と共生する、持続可能で豊かな地域経済を築くことを目指す。
「クラウディアとは、3年ほど前にスロー・フードの取り組みをしたことで、意気投合しました」
そう語るのは、NGO「コレクティーボ・プラン・ビオマ」を運営するダリネル・バジーナス(37)だ。二人はボランティアと共に市場をめぐり、形が悪い、少し傷んでいるといった理由で廃棄されていた野菜を集めた。
「それを使ってクラウディアが料理を作り、病院や町の広場で振る舞うことで、もう使えないと思っているものでもおいしく食べられることを、人々に伝えました。それから、地域で自然と共生する形の農業を行うために、このコミュニティ・ガーデンを作ったんです」
私たちが訪れたのは、町の北部にある教会の脇でコレクティーボ・プラン・ビオマが運営するコミュニティ・ガーデンだ。近隣の住民が有機野菜を育てている。自宅の生ゴミもここへ運んできて、コンポスト用容器に入れて堆肥を作り、利用する。
「ゴミ問題の一部が解決されます」と、ダリネル。続けて、「ここでは、ほかの同盟者たちの活動も行われているんですよ。今日はチアパス高地の村々から先住民女性が集まり、民族衣装の刺繡について学んでいます」と、教えてくれる。
コミュニティ・ガーデン内に作られた板張りのテラスでは、「ムヘール・イ・マイース(女性とトウモロコシ)」という女性支援団体の呼びかけで集まった女性たちが、刺繡の話をしていた。チアパス高地には異なる言語を話す先住民が住み、それぞれ独自の刺繡を施した民族衣装を持つ。それを互いに学び合うことで知識を共有し、伝統を継承しようというのだ。先住民女性の多くは、刺繡で飾った衣服を販売し生計を立てているため、いろいろな技術やデザインを学べば商品に生かすこともでき、自立の後押しにもなる。ムヘール・イ・マイースは、ほかにもトウモロコシを使った独自の製品を女性の手で開発・販売するなど、先住民女性の生活向上のための事業を実施。加えて、学校の子どもたちに伝統的な有機農業の大切さを伝えるワークショップを開く活動もしている。
有機農業のワークショップは、コレクティーボ・プラン・ビオマも行っている。そうしたワークショップに参加した若者と子どもたちが、2020年から「セミジェーロ(苗床の意)」というグループを作り、都市菜園作りとその意義を広める芸術活動を展開している。
「子どもたちは、自然と共生する農業を学び、その経験を生かした歌詞を作ってラップ音楽にしています。いろいろなところでパフォーマンスをしているんです」
そう話すジョバンニ・ナヘラ(30)は、農業技師でラッパー。町外れにある一軒家を菜園と作業場にして、子どもたちと生ゴミから堆肥を作り、廃材でプランターを製作して、野菜を育てている。野菜や堆肥、プランターの販売も行い、都市菜園のワークショップも手がける。
ジョバンニと子どもたちは、クラウディアのレストランの2階テラスにも菜園を作り、管理を担う。
「僕は大人になっても、こういう仕事がしたい」と、10歳の少年。「作った野菜を食べる時は、自分の努力がその中に詰まっている感じがして、おいしいんだ」と、笑顔を浮かべる。
子どもたちは私たちに菜園を案内した後、オリジナルのラップを披露してくれた。
「自分の手で、有機野菜作る。僕らはただ、よりよい未来、創りたいだけ」
歌って踊る4人の子どもたちは、まさに「持続可能な未来の伝道師」だ。
連帯経済
様々な社会運動と結びついた形で、人々が連帯して、社会の分断や貧困を克服し、民主主義と平等の実現や、環境保護などを目指す活動を通して築く経済
スロー・フード
伝統的な食材や料理、質のよい素材を提供する小生産者らを守り、消費者に味の教育を進めることで、おいしく健康的で、環境に負荷を与えず、生産者が正当に評価される食文化を広める運動