2日間の取材で訪れた初日は、午前中、宅配する野菜の仕分け作業が進められていた。無農薬、有機栽培の畑で収穫したばかりのブロッコリーやキャベツ、小松菜など、11種類の野菜が、丈夫な紙袋に詰められていく。年間で約80種類は穫れるという。野菜でいっぱいになった袋は、自前の配送車に積まれて、「野菜家族」と呼ばれる定期購入者(約100世帯の会員)のもとへ届けられる。この日は筑波研究学園都市の18世帯分を配送した。
自然生クラブでは、現在、米、麦、野菜、自家製大豆で作る味噌を、ほぼ完全に自給している。この「食の自給」を、地域やつながりのある人々に広げることを目指す。野菜家族の会員も、自然生クラブから近いつくば市、土浦市、牛久市、守谷市や支援者が多い東京都台東区在住の世帯が中心になっている。年会費1000円を支払い会員になった世帯に、毎週もしくは隔週で季節の野菜や米を販売する。配達料は、3人以上のグループなら無料で、個人宅でも100円(台東区200円)。遠方に住む人も会員になることはできるが、配送を運送業者に頼むことになるので、持続可能な地域社会を目指すうえでは、自分たちで宅配できる範囲が理想だ。
昼食後、一部のメンバーが畑に出た。畑は、約3ヘクタールを近隣農家から預かっている。男性数人が、まず畑に撒くくん炭(もみがらをいぶし、炭化させたもの。土壌改良に使われる)を軽トラックに積むために、グループホームのすぐ側の沢の方へ向かう。年齢も様々な仲間たちが、冗談を言い合いながら歩いていく。作っておいたくん炭を積み終わると、畑に移動してそれを撒き、残りの時間はそれぞれのペースで畑に生えた雑草を引く。
その間、柳瀬さんは、5月の田植えに備え、トラクターを使って代かきを進める。そこは、柳瀬さんが農家資格(市町村の農業委員会に「認定申請書」や「営農計画書」を提出し、「農地基本台帳」に登録されることで得られる資格。田畑が購入できる)を取得して購入した約0.4ヘクタールの水田だ。稲作をする水田約5ヘクタールの大半は、地中に埋められた水道管で水を供給するタイプの借地だが、ここだけは川から直接水を引き、理想とする自然の循環を生かした伝統的な水田になっている。そこで苗づくりをする。
取材2日目。朝食を終えると、大半のメンバーが山道を下っていく。近くの米倉庫を改造して造られた「田井ミュージアム」という「自然生クラブ」の施設まで、田畑の間に伸びる道路を20分ほど歩いた。
ミュージアムに到着したメンバーは、そこにあるアトリエで、好きな画材を使って絵を描き始める。迷路のような線を重ねていく者、カラフルな画面にたくさんの顔を並べていく者、富士山を繰り返し描く者……。
「日常的に描き続けることが大切。そうすることで、自分のスタイルというものが出てきます」と、柳瀬さんは言う。作品の中には売れたり、ポスターやTシャツのデザインに採用されるなど、報酬を生み出すものもある。売上は、むろん作者の報酬だ。
10時半すぎには、隣に設けられたカフェ・菓子工房スペース「ソレイユ」(コロナ前はカフェとして営業していた)で、自家製のお菓子と自家焙煎コーヒーやお茶で一服する。その後は、スタッフと利用者の多くが、ミュージアム内のミニシアターで、田楽舞の練習に入った。5月中旬の田植えと9月の稲刈りの時期には、毎年、大勢の訪問者を前に、田んぼでオリジナルの田楽舞を披露する。その舞は、海外公演の経験もあり、2009年には国際交流基金の地球市民賞を受賞した。この日は、衣装を着て本番さながらのリハーサルが行われた。