地域住民であるコープこうべの組合員とその地域の市民発電所であるすみれ発電との連携によって、電気の地産地消が持続可能な豊かな社会を作るという意識が、市民に広がっていった。さらに、安全な食の源である地元の農業を守りたいという井上さんの思いは、発電と農業のコラボを実現する「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」によって形になっていく。
ソーラーシェアリングとは、太陽光エネルギーを、「発電」と作物を育てる「農業」の両方に生かす仕組み。太陽光パネルを地面から3メートル以上の高さに設置し、その下で作物を育てる。太陽の動きに伴ってパネルの下に日陰ができることで、熱が緩和され、作物の成長によい環境が生まれる。井上さんたちは、このソーラーシェアリングをできるかぎり増やしていこうと計画している。
「宝塚市の面積の3分の2を占める西谷地区は、再生可能エネルギーの宝庫なのですが、1年におよそ100人ずつ住人がいなくなり、人口は2300人を割ってしまいました。農地が空き、働き手もいなくなって、耕作放棄地が増えていることに、危機感を抱いています。ソーラーシェアリングで、この状況を変えられるのではないかと思います」
ソーラーシェアリング普及への第一歩となったのは、すみれ発電所第4号の太陽光パネルの下に広がる市民農園「KOYOSI農園」だ。
「発電を通して、生産者と消費者をつなぐことが大切だと考えたんです。市民農園での発電はすみれ発電、農地を借りて作付けするのは大勢の市民、農地の管理・運営は地主さん、そして電気の購入はコープこうべで、それを使うのは市民。つまり、電気や作物を作る人たちと、買って使う人たち、それぞれが自分の責任を果たす仕組みです」
7月後半の週末、KOYOSI農園には、反原発運動をきっかけに井上さんと出会ったという地主の古家(こいえ)義高さん(72)と、農園の土地を借りている近畿大学の藤田香教授(環境経済学)と学生たち、龍谷大学の竹歳一紀教授(農業・資源経済学)、コープこうべの職員やボランティアが、太陽光パネルの下で育つサツマイモの下草刈りと蔓返しを行う姿があった。30人以上が畑の雑草を引き抜き、畝からはみ出した芋の蔓が地面に根を下ろさないよう、丁寧にもとの畝へと戻していく。家族で参加するコープ組合員の子どもたちは、畑でカエルやバッタを見つけて、はしゃいでいる。
地主の古家さんは、わなを使って捕獲したモグラの死骸を参加者に見せながら、「モグラが畝の中にトンネル状の穴を開けてしまったため、新たに100本ほどサツマイモを植え直しました。ですが、またモグラにやられてしまいました」と説明する。
井上さんは「パネルの下が“涼しい”ということを感じながら、作業をしてください」と声をかけ、ソーラーシェアリングへの理解につながる体験を促す。
1時間ほどの作業の後、参加者は全員、近くのスペースへ移動し、まずソーラーシェアリングについて、井上さんの話を聞いた。「農園での作業は、必ず環境学習とセットにし、発電だけでなく環境についても考えなければ」という井上さんの思いのこもった体験学習プログラムだ。
昼食をはさんで、今度はコープこうべのスタッフの話が始まる。2021年で100周年を迎えたコープこうべの歴史の中で最初に扱った商品の一つを、参加者にクイズ形式で当ててもらう。その正解は「炭」、つまり「エネルギー」だ。
「生協は、設立当初から、地域のエネルギーを支えてきました。だから、子どもたちが大人になった時に安心して暮らせる持続可能な社会を創るには、再生可能エネルギーが大切だと考えたんです」
コープこうべ運営の「コープでんき」は、2017年から再生可能エネルギーの普及に取り組み、天然ガス発電7割、そのほかのFIT電気(太陽光発電のほか、国産木材チップを使ったバイオマス発電も含む)3割の電気を販売している。中でも、すみれ発電との連携が可能にした電気の地産地消と、ソーラーシェアリングによる「農業を守りながら発電というエネルギー産業を創る活動」は、持続可能な地域社会を創るための鍵となるものだ。
KOYOSI農園を含め、西谷地区ではすでに8カ所で、ソーラーシェアリングが導入されている。そのうちの二つは、ソーラーシェアリングの普及啓発を行う一般社団法人「西谷ソーラーシェアリング協会」のものだ。その協会の代表は、KOYOSI農園の地主の古家さんが務めている。
「ソーラーシェアリングをもっと増やしていくためには、土地を所有する農家の理解が必要です。古家さんのような地元の農家の方が事業の中心にいることは、とても大切なことなんです」
と、井上さんは言う。