そんな会員団体とのつながりを生かした仕組みの一つに、「会員推進機構」がある。
〈ろうきん〉の各支店には、会員団体の組合員や役員から選ばれた「推進委員」が複数名おり、年に数回、「推進委員会」という会議を〈ろうきん〉職員と開いている。そこでは利用者からの要望や〈ろうきん〉からの提案などが話し合われる。そうした会議は、都道府県レベル、地域レベル、全国レベルでも開かれる。
例えば、大阪府堺市にある〈ろうきん〉堺支店の推進委員会は、異業種約20団体から集まった推進委員27名で構成されている。その委員長で、都道府県レベル(この場合は2府4県)の代表が集まるエリア会議「近畿ろうきん推進会議」の議長でもある阿部匡伴(こうすけ)さん(大阪ガス労働組合南部支部執行委員長)は、もう10年余り、推進委員を務めている。
「私たちの労働組合と〈ろうきん〉は昔から結びつきが強いので、前任者から引き継いで以来、続けてきました。推進委員会では、異業種の労働組合の人たちと交流できることが、うれしいですね」
同じく堺支店推進委員で副委員長の林田敏典さん(堺市職員労働組合執行委員長)は、推進委員になってまだ3カ月ほどだが、会員推進機構の良さをこう語る。
「顧客とこういう形で話し合って、より良いサービスを提供しようとしてくれる金融機関は、ほかにありません。客というより、同じ仲間として互いに助け合うところが〈ろうきん〉ならではです」
取材当日には、インタビューの後に、同じ堺支店の会員仲間で開くファミリーイベントの準備会議が持たれた。地域の〈ろうきん〉職員と会員団体の構成員が、ともに楽しむ行事の計画だ。そこにも協同組織として「つながり」を大切にする〈ろうきん〉の姿が垣間見える。
「住宅ローンでお世話になった時も、常に職場へ来て相談に乗ってくださいました。そのつながり感がいい」と、林田さん。阿部さんも「私は〈ろうきん〉のヘビーユーザーです」と笑みを浮かべながら、銀行の住宅ローンを〈ろうきん〉に借り換えることができて助かった経験を話してくれた。
こうして築かれてきた会員団体との信頼のネットワークは、数字にも反映されている。2022年9月末の預金残高でみると、〈ろうきん〉の預金残高21兆9405億円は、全国の金融機関の中でも11位(日本金融通信社調べ)と、一般の地方銀行より規模が大きい。それこそ協同組織金融機関としての底力と言えるだろう。
社会的課題に取り組む「運動体」
〈ろうきん〉は、金融事業だけでなく、「福祉運動」を通じて、すべての人が共生できる社会の実現を目指していると、山口さんは話す。
「金融事業と福祉運動、どちらか一方ではなく、両輪で運営するところが、〈ろうきん〉らしさなんです」
〈ろうきん〉にとって、福祉運動体としてその時々の社会的課題に対応するのは、重要な役割だ。「労働者福祉協議会(労福協)」が「労働者自主福祉運動」と名づけた相互扶助の運動を展開する中、〈ろうきん〉も事業を通して、労福協とともに様々な課題の解決に尽力してきた。
「特にサラリーマン金融の被害者救済は、大きな取り組みでした」(山口さん)
1970年代後半、消費者金融(いわゆるサラ金)は、法外な金利で債務者を追い込み、多くの自殺者を出した。それに対して〈ろうきん〉は、低金利のローンを用意し、多重債務と厳しい取り立てに苦しむ労働者に借り換えを勧める運動を実施する。そうして返済負担の軽減を図ると同時に、労福協や消費者団体、弁護士と協力して、高金利を規制する法律の制定を訴えた。この問題は1980年代にも再燃し、その時は被害を防止するための対策キャンペーンを全国で展開した。2000年代になって、消費者金融やヤミ金融の被害による多重債務問題が発生すると、高金利で無制限な貸し付けに規制をかける法改正運動を強化。そして2006年、ついに貸金業法の抜本的改正を実現した。
「運動を通じて働く人の切実な声を国に届け、法改正を実現できたことは、働く人のための福祉金融機関ならではのこと。成果を目の当たりにして、感動しました」
山口さんはそう語り、さらにこう続ける。
「日本社会は今、縮んできていると感じています。人口減少で働く人が少なくなる一方で、非正規など不安定な雇用が増えているうえ、コロナで仕事が減り、多くの人が生活困窮に陥っています。そうした中、〈ろうきん〉は返済方法に関する相談や、非正規雇用の人への融資制度なども取り扱い、働く人たちが生活で抱えている課題に、金融を通して取り組み続けているんです」
山口さん自身も、世田谷支店の店長をしていた時代、ある取り組みに力を注いだ。自身が「グッドマネー運動」と呼ぶ金融教育の講座だ。マネートラブル、資産運用、年金など、要望に合わせてテーマを選び、山口さんら〈ろうきん〉職員が会員団体の職場へ出向いて、講座を開いた。そこでどうしても伝えたいことがあったからだ。
「預金や資産運用などを考える前に、まず金融機関を選ぶ基準に“社会性”という切り口を持ってはどうか、ということです」