「私にとっての幸福は何か」という発表では、TDUで得ている生きる実感と、将来そこを離れた後の自分に対する不安、さらに「親の(学費)投資」に報いる形で生きていくためにレベルアップしなければと思うことなどが、語られた。共感する声や、「幸福は、自分がどう生きたのかをもとに考えるのが近道では」といった意見が出る。
もう一人の「2つのわたし、ひと」という発表では、家族に否定されていた過去の自分に影響され、必要以上に他人の目を気にする今の自分の苦しみが、伝えられた。「価値のない人間とされている過去の自分を、今の自分が肯定的に捉え直してみては」といった提案がされる。
講座の様子からは、440Hzの原点が見えた気がした。他者との対話を通して、自分の不安や苦しみのもとを探り、理解していくことで、自己否定から抜け出し、「自分から始まる生き方」をみつけてきたメンバー。彼らもかつて、この日の学生たちのように、仲間に自らをさらけ出し、理解され、理解しようとするなかで、自分の生きる道を探していたのだろう。その結果、仲間と学び、支えあいながら、働き、生きることのできる場を、自分たちで生み出した。
出会いとつながりの先に
440Hzは現在、新たな事業として、不登校の子を持つワーカーズコープの職員とその子どもをサポートする「リゾームスクール(家庭など自分の選んだ場所で学んでいくプロジェクト)」を行っている。朝倉さんと石本さんが、不登校の子どもやその親が学校とどのように関わればいいのか、家庭学習はどう進められるのかなどの相談に乗り、子どもの自由な学びを支えるのだ。
取材日の午後も、二人はミーティングルームで1時間ほど、相談に来た母親と話をしていた。
「いらしているのは、ワーカーズコープの方々なんです」
と、朝倉さん。440Hzは、数年前から「日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会(以下、連合会)」の人たちと連携しており、つい最近、連合会の会員にもなった。440Hzにとって、ワーカーズコープとの出会いは、新たな扉を開くものだった。約5年前、生きづらさを抱える若者支援組織の大会で声をかけられ、交流を深めるうちに連携することになったという。
「ワーカーズコープでは、働く人が主体的に自分の仕事を仲間と協同しながら創っています。その『働く』という部分を『学ぶ』に置き換えると、私たちが身につけた学びのあり方と一致するんです。そういう意味で協同できる面が多いと思います」
石本さんはそう考える。
冒頭で述べたように、440Hzは現在、株式会社の形をとっている。東京シューレに通った若者の働く場として、親たちが株主となって作られた会社の枠組みを引き継いだためだ。しかし、より多くの株を持つ者がより大きな発言力を持ち、利益を上げて配当金を出すという株式会社の形態は、本来、440Hzに合わない。「労働者協同組合」の方が、親和性があるのだ。
「ワーカーズコープにおいても、それぞれの事業はいろいろな悩みや当事者主体ならではの葛藤を抱えながら、運営されているように感じます。僕たちと似ている」
と、長井さん。石本さんも、
「同じ会議に出たり、一緒に仕事をしたりするなかで、互いのことがよりよくわかってきました」
と話す。
6月中旬、連合会の定期全国総会の会場には、440Hzの3人の姿があった。オンライン併用で行われる総会の運営サポートを任され、石本さんがカメラ、長井さんが演出、信田さんがテロップと音声を担当している。隣に座った連合会本部スタッフと言葉を交わしながらパソコンに向かう信田さん、高い位置に据え付けたカメラを台に乗って操作する石本さん、連合会の人たちと気さくに撮影の段取りを確認し合う長井さん。
会議終了後、連合会本部のスタッフに、「440Hzが作ったオープニングビデオ、とてもよかったです」と声をかけられた石本さんから、笑みがこぼれた。
「こうした出会いとつながりから生まれた仕事が増えています。仕事が多くなって、仲間が増やせるといいなと思います」
とはいえ、440Hzメンバーの収入は平均収入と比べるとかなり少なく、そのわりに労働時間が長い。それでも彼らはこう胸を張る。
「私たちは、働くことと生活することが一緒になっているんです。お金につながらなくても大事な仕事もある。何より人生の時間の使い方を自分自身で決めているので、楽しいんです」
日本労働者協同組合連合会の定期全国総会会場。信田さん(中央奥)が音声とテロップ、石本さん(手前右)が映像撮影、長井さん(手前左)が段取りを確認する。撮影:篠田有史
株式会社 創造集団440Hz
設立年:2010年
人数:4人
事業内容:映像制作、デザイン、講座・講演・ワークショップなど
モットー:自分らしく、互いを尊重して働く