この連載をもとに再構成した書籍『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』が、集英社新書より2025年2月に刊行されました!
ジャーナリストの工藤律子さんが、人の暮らしと環境を軸に 「つながり」と「協力」に基づく新しい経済活動に取り組む現場を求めて、日本各地を訪ね歩く。
閉塞感のある社会で、生きたいように生きる――「創造集団440Hz(以下、440Hz)」のウェブサイトのトップに掲げられている言葉だ。そこには既存の社会のあり様に疑問を抱き、自分らしい働き方を追求する者たちの覚悟が見える。440Hzは、現在、株式会社の形態をとっているが、利潤よりも人を、競争ではなく協力を大切にした職場を築いている。
現在、440Hzで活動しているメンバー。左から朝倉景樹さん、長井岳さん、石本恵美さん、信田風馬さん。撮影:篠田有史
不登校からの気づき
メンバーは全員、フリースクール「東京シューレ」が、1999年に立ち上げた「シューレ大学」の出身だ。東京シューレは、不登校がまだ「登校拒否」と呼ばれ、不登校の子どもがひどく差別されていた時代からずっと、子どもたちが自分らしくいられる学びの場を提供してきた。そのシューレのスタッフが、18歳をすぎてからも自分らしい生き方をみつける学びを続けたいと望む若者とともに創ったのが、シューレ大学だ。
「そんなシューレ大にいた若者3人が、自分らしく、互いを尊重しながら、社会とつながるための起業をしたいと、440Hzを創ったんです」
440Hzのアドバイザーである教育社会学者の朝倉景樹さん(55)は、そう語る。朝倉さんは、30年近く東京シューレのスタッフを務めた後、2020年10月からシューレ大学の発展型である「TDU雫穿(てきせん)大学Tekisen Democratic University(以下、TDU)」の代表となった。TDUは、440Hzと協力しながら活動している。
440Hzは、2010年9月、映像・デザイン制作会社として産声を上げた。社名は、国籍や人種に関係なく、生まれたての赤ん坊の産声は440Hzだという話をもとに、「生まれたての赤ん坊がお腹の底から泣く時のような根源的なところから仕事をし、表現をして生きていきたい」という思いで付けられた。4人のメンバー(うち、1人は現在休職中)が運営に携わる。
代表取締役で映像制作担当の石本恵美さん(40)は、中二で不登校になり、東京シューレに4年通った。
映像制作を担当する石本恵美さん。撮影:篠田有史
「そこで初めて学校に行かないという生き方もあるんだと知り、気持ちが楽になりました。それでもまだ、自分には『価値がない』と思い込んでいて、自信が持ちきれませんでした」
そんな時、朝倉さんに声をかけられ、シューレ大の設立準備に参加することに。設立・運営に必要な予算、それに見合った学費、カリキュラムなどを、学生仲間やスタッフ全員で話し合って決める過程に関わった。
「主体的に、人と生きる楽しさを知りました。大学では、映像表現とも出会い、映像を通して社会と関わり、社会を良くしていきたいと思うようになったんです」
その思いを叶えるために、仲間と440Hzで働く。