最後は、お金を上手に使うために、買う目的を明確にし、収入とのバランスを考えることなどが、提案される。「収入よりも買いたいものの値段が高い時はどうする?」という問いには、「友達に借りる」、「必要なものを必要な時に買えるよう、常に貯金する」、「分割払いはどう?」と、次々に声があがる。若者たちは、驚くほどよく喋る。
「お金の勉強会」。講師(奥の女性たち)によるワークショップに参加する若者を、大人たちが見守る。撮影:篠田有史
「この場所に、安心感があるんだと思います。ここで聞いたことをお母さんにも話してあげた、と言う子もいるんですよ」
講師の1人が、終了後にそう教えてくれた。〈だんだん〉を「子どもたちともっと話せる場にしたい」という近藤さんの思いが、その場に関わる人たちの間にも広がり、大家族のお茶の間のような空間になっているからだろう。
近藤さんはこう語る。
「子どもたちは、やりたいことや言いたいことがあっても、ストップをかける大人はいるけど、相談できる人、頼る人がいない場合が多いんです。でも、ここでつながっていれば、なんとかなるかな、って」
子どもを軸につながる社会
家庭が抱える問題は、家庭内だけに留めず、地域に生きる者同士が互いに声をかけあい、助け合う中で解決する。それが、近藤さんが思い描く豊かな地域像だ。
「私の子どもの頃は、近所のおばあさんが一人暮らしになったと聞けば、お漬物を持っていったりしていました。お互い様、が当たり前だったんです。ゆるやかなつながりがそこにあることが、皆の安心を生むと思うんです」
〈だんだん〉は、今、地域にある大学や店、行政ともつながりを築き、異なる者同士が互いを認め合い、支え合う地域社会を築く拠点になろうとしている。
パンデミックによる全国一斉臨時休校の際は、働く母親たちから悲鳴が届き、近藤さんたちは学校給食に代わるワンコイン弁当の販売を実施した。区役所に相談したところ、福祉課が、その情報を近隣6つの小学校の就学援助家庭に伝達する役目を担った。
「おかげで、それまで知らなかった就学援助家庭のお母さんたちとつながることができました」
と、近藤さん。現在、区の福祉計画推進会議委員や母子保健推進協議会委員、地域とつくる支援の輪プロジェクト委員、近所の学校の地域教育連絡協議会委員も務める中で、こうも感じている。
「行政の考え方がみえるようになり、改めて、現場の声を行政に直接伝えることが必要だと思いました」
21年12月19日(日)、〈だんだん〉の前の路上では、正午から午後2時まで「こども天国」というイベントが催された。1年前は感染予防のためにごく小規模でしかできなかった行事に、今回は300人を超える子どもや親子連れが詰めかけた。皆、食料品や文房具などのプレゼント袋とできたてのホットドッグを受け取り、玉入れゲームをしたり、クリスマスツリーの絵に願い事を貼り付けたり、好きな古着を選んだりと、お祭り気分を楽しんだ。
「こども天国」の日。学生たちが作った玉入れゲームに興じる子どもたち。赤いコップに玉が入ると、いろいろな形の消しゴム1個が、入らなくてもお菓子が1つもらえる。撮影:篠田有史
ゲームは、近隣にある東京工科大学の作業療法学専攻の学生たちが手作りで用意し、サンタ姿で子どもたちと遊んだ。ホットドッグは地域の業者がキッチンカーで来て、プレゼント。そこには、いつも〈だんだん〉を手伝っている青年たちや女性、弁当を買っている子どもや大人はもちろん、通りがかりの移民の家族や大田区副区長ら区行政関係者の姿もあった。
パンデミック下での活動を通じて、近藤さんは改めて「子どもを軸にした地域づくり」の大切さを認識している。
「コロナ禍でも〈だんだん〉の活動はちゃんと続けられるのか、お金は足りているのかなどと、いろいろ心配して声をかけてくれるのは、子どもたちです。子どもたちにとって、信頼関係で結ばれた人たちとのつながりの場は、とても大事なんでしょう。だから、多世代のいろんな人たちの交流は、子どもを軸に築いていけばいいと思うんです」
そう話す近藤さんの考える理想の社会には、家庭や学校や商店街や工場、公共施設など、多種多様な人と場所が存在し、その中心に子どもたちの笑顔がある。