「テレビで子ども食堂を知って、日本にもこんなニーズがあるんだと驚きました」と話すアイザックさんは、6年ほど前から〈だんだん〉を訪れている。そんな彼を中心に、テーブルでは子どもの頃から〈だんだん〉に通う20歳の青年と、区のボランティア情報で探してきた高校1年生の少女が、ニョッキ作りに励む。近藤さんは、女性2人(子ども食堂のボランティアスタッフ)とミートソースとサラダ作りを進める。女性たちは、手伝うはずだった人が来られなくなり、「近くに住んでいるので」助っ人に入った。
ニョッキは、生地をテーブルの上で長細く伸ばしてから、3〜4センチにちぎっては丸め、真ん中にフォークでくぼみを作ってバットに並べていく。
「あ、ドラえもん」、「お弁当買う人の誰に当たるかな?」
青年が作ったドラえもん形のニョッキを見た高校生とアイザックさんが、楽しげに言う。ニョッキの形は作り手により微妙に異なるが、「サイズが同じくらいなら、形は違ってもいいですよ」と、アイザックさん。その言葉に、作り手の遊び心が刺激される。
厨房では、女性たちが野菜を刻んだり、ミートソースを煮込んだり、ニョッキが茹で上がった時の準備に忙しい。バットいっぱいに並んだニョッキは、鍋で茹でてソースと絡め、紙製の弁当箱に入れて、サラダやご飯とセットにする。出来上がった弁当は、保温箱に詰め、販売に備える。
「アイザックさんのお弁当が食べたくて、予約してきた子たちもいるのよ」
と、近藤さん。アイザックさんは笑顔だ。
12時を過ぎると、1人、2人、と弁当を取りにくる人が現れ始めた。1人目は、小学校低学年の少年で、母親と自分の2人分を買っていく。次は小さな子とベビーカーの赤ん坊を連れた母親。一人暮らしの高齢者も。「食堂には来てたんですが、お弁当は今日が初めて」と話す女性2人組もいる。「おばあちゃんが来ているので、予約数より多くもらってもいい?」と尋ねる母娘連れには、「いいわよー、多めに作ってるから」と近藤さん。受け渡しの際は、会話が弾む。
弁当販売がほぼ終わったところで、弁当作りをしたメンバーも、距離をとってテーブル席に着き、ニョッキを味わった。近藤さんが、「さっきの少年、(ここへ来ることが)外出のきっかけになればいいね」などと、気づいたことを口にする。手伝いの青年にも、「ご飯はどうするの? ガリガリになっちゃわない? バナナ持ってく?」などと、しきりに話しかける。連休のため、会社の食堂で食べる機会がなくなる青年のことが、心配なのだ。
「コロナでお弁当販売になってから、かえって一人ひとりと話す時間が増えて、状況がよりよくわかるようになりました。その分、必要なことが増えて忙しくもなりましたけどね」
近藤さんはそう微笑む。
子どもが頼れる、話せる場
パンデミックの間も、〈だんだん〉は、地域の誰かに必要なことが出てくれば、どんどん実行に移している。まず、食料品のお裾分けを始めたが、それを受け取りに来る母親から「ハローワークでパソコンのスキルがないとダメと言われた」と聞けば、パソコン教室を開催し、これから就職活動の若者にも声をかけた。複雑な家庭環境に育ち、金銭感覚を養う機会のなかった若者の将来が気になると、「お金の勉強会」を企画。つながりのある一般社団法人「ウーマンライフパートナー」の協力で、毎月最後の土曜日に、お金についてのワークショップを開いている。
「自分のお金の使い方について、どう思っていますか?」
勉強会を取材に訪れた日、ワークショップはその問いから始まった。子ども食堂に関わる4人の若者が参加し、それぞれの経験を述べる。「スーパーのほうが安いのに、ついコンビニへ行ってしまう」、「大袋とか、お得だと思うと買ってしまう」、「僕は貯めている」と、答えは様々だ。
その後はまず、自分がお金を何に使っているかを書き出し、「消費」、「浪費」、「投資」のどれに当てはまるかを考える。大半は、必要なものを消費するために使っていたが、中には「同じものを2つ買っちゃった」、「箱買いで、買いすぎてしまう」と告白する子も。講師3人も、値下げや割引といった文句に乗せられてしまった、といった体験談を披露する。
最後は、お金を上手に使うために、買う目的を明確にし、収入とのバランスを考えることなどが、提案される。「収入よりも買いたいものの値段が高い時はどうする?」という問いには、「友達に借りる」、「必要なものを必要な時に買えるよう、常に貯金する」、「分割払いはどう?」と、次々に声があがる。若者たちは、驚くほどよく喋る。
「この場所に、安心感があるんだと思います。ここで聞いたことをお母さんにも話してあげた、と言う子もいるんですよ」
講師の1人が、終了後にそう教えてくれた。〈だんだん〉を「子どもたちともっと話せる場にしたい」という近藤さんの思いが、その場に関わる人たちの間にも広がり、大家族のお茶の間のような空間になっているからだろう。
近藤さんはこう語る。
「子どもたちは、やりたいことや言いたいことがあっても、ストップをかける大人はいるけど、相談できる人、頼る人がいない場合が多いんです。でも、ここでつながっていれば、なんとかなるかな、って」