てんぽ印では今、10人の日本人スタッフのほかに5人の技能実習生(フィリピン人1人、ベトナム人4人)が働いている。最近は、その彼らの故郷ベトナムとの直接交流も始めた。今年の春、初めてベトナムを訪れた酒井さんは、実習生の実家を訪ね、ゆったりとした時間の流れや人の温かさに触れて、たまに日本人と実習生の間にいざこざが起きる理由がわかった気がすると言う。
「私たちの視野が狭かったんです」
村上さんも、「日本人こそ、違いにもっと寛容になるべき」と話す。
2人は今後もベトナム訪問研修を続けていきたいと考えている。
そのベトナムには、片山さんの発案で、2008年、現地法人「ファーマーズユニオンベンチャー」が設立された。無茶々園は、地域の高齢化と人口減少による人手不足を補うために、2002年からフィリピンの技能実習生を受け入れ始め、2007年からはベトナムの実習生も受け入れているが、その実習生を現地で支える体制を整えるためだ。現地にも仕事を生み出し、持続可能な地域づくりをサポートすることを目指す。
片山さんは、30代の頃、町の青年育成プログラムで海外を旅し、途上国の農家の貧困を目の当たりにした。その経験から、実習生をただ労働力として受け入れるのではなく、「現地の農家との付き合いにせにゃいけん」と考え、彼らの地元にも貢献する事業を創った。
今、その事業を担うのは、「ベトナムの水が合う」と話す髙埜太之(たかのもとゆき)さん(41)。髙埜さんは、会社員をしていた29歳の頃、東日本大震災のボランティアで出会った10人ほどの仲間とともに、違う生き方を求めてベトナムへ移住し、トマト栽培を始めた。しかし、3年で生産はうまくいかなくなり、大半の人が帰国。そんな時、片山さんたちの事業を知り、ファーマーズユニオンベンチャーに就職した。現在は、技能実習から帰国した人たちの実家である農家など、地元の人の手で生産された胡椒やカカオ、パイナップルなどの果物と、すいかやユウガオなどの種苗を、ベトナム国内や日本の無茶々園が持つネットワークで販売している。
髙埜さんは言う。
「もっと農業や地元農産物に誇りを持って地域づくりを担える人材を、ここベトナムで育てたいですね」
現在、スタッフの8割が地域外出身者である無茶々園は、これからますます多様な仲間を取り込み、コミュニティの輪を拡げていくことだろう。
「地域協同組合」という主体
「無茶々園が農家組織から、真に“地域組織”となったのは、『百笑一輝(ひゃくしょういっき)』ができてからだと思っています。福祉事業は組合員のためではなく、本当の意味で地域のために行われているからです」
2013年にできた株式会社「百笑一輝」の存在を、大津さんはそう評する。
大津さんの同級生である清家真知子さん(58)が統括管理を担う百笑一輝は、高齢者のためのデイサービスセンター3カ所、グループホーム1カ所、シェアハウス1カ所を運営し、居宅介護支援・訪問介護・介護タクシーのサービスと学童保育も行っている。清家さんは、12年間、ほかの社会福祉法人で社会福祉士として活躍していたが、トップダウンの儲け主義が見え隠れする福祉のあり方に疑問を抱き、大津さんの誘いに応じて、百笑一輝の仕事を引き受けた。
「地域の人誰もに居場所があり、皆が互いを受け入れ、支え合って生きていく。それが社会福祉の理念だと思うんです。そうすれば、どんな人も笑顔で自主的に動きます」
そう考える清家さんのもとでは、無茶々園のヘルパー講座を受講した、6割が地元出身という20〜80代のスタッフが働いている。利用者も近隣地域の人たち。互いに気心の知れた者同士だ。