評価システムの結果次第で教員の身分や処遇、職場の予算配分に影響が出る可能性があるのですから、学校も教育委員会も評価を得るための「計画書」や「評価書」の作成に追われることとなりました。学校運営費が競争的に配分されることから、各校では予算獲得に向けて「教育プロジェクト」を立案し、その度に教員は申請書や報告書を作成しなければなりません。膨大な事務作業に追われるようになり、ここでも労働時間が延びました。
第3に「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の存在です。1972年1月に施行された給特法では、給与総額の4%を「教職調整額」として一律加算する代わりに「時間外業務手当及び休日勤務手当は、支給しない」(第3条2項)と明記しています。つまり公立学校の教員は、超過勤務手当が出ないのです。
どんな職場でも職員の労働時間を適正に管理することは、管理職の重要な仕事であるはずです。しかし、給特法が超過勤務手当の不支給を規定しているため、学校の管理職は教員の超過勤務を気にしなくなりました。教員の勤務時間を把握しなければならない、という意識さえ希薄になっている学校も少なくありません。
教育行政(文部科学省、教育委員会)は給特法の存在によって、教員の超過勤務にともなう人件費の増加を意識することなしに、さまざまな教育政策を実行してきました。新たに政策を加えれば、それまで行っていた業務を減らさない限り現場の負担は増え、教員の労働時間はより長くなります。コストが増加するという意識があれば、新たな政策を実行する代わりに、従来の業務を減らすか、追加の予算や人員を準備するはずです。しかし実際には何の手当もなく、教員の過剰労働を促進することになりました。
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では、こうした状況を打破して教員の負担を軽くし、志望者増へとつなげるにはどうすればよいでしょうか? 部活動については顧問教員による指導をやめて外部の指導者に委託する案や、学校の課外活動から切り離して地域のスポーツクラブに移行させる案などがあります。しかし、すべての学校が適任な外部指導者や、受け皿となるスポーツクラブを確保できるかというと短期的には困難でしょう。
部活動を学校から切り離すか否か――根本的な議論に結論が出るまで、すぐにでも取り組める改善策を検討すべきです。そこで、部活動の総量規制はどうでしょうか。例えば活動は週3日までとし、全国大会など「競争」を目指した部活動から、生徒たちの「居場所」となる部活動への転換も顧問教員の過剰労働を抑制することにつながります。
また、平日よりも立会時間が長い土・日の部活動を規制することも重要です。最低でも週末の2日間連続して教員が立ち会うことは避けさせる、もしくは1日あたりの活動時間を制限する。夏休みなどの長期休暇中も、活動時間・日数に上限を設定することは有効な試みだと思います。
次に教員の増員です。公立義務教育校における1クラスあたりの児童・生徒数は「義務教育標準法」(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)に定められていて、小学校1学年は35人、小学校2学年〜中学校3学年は40人です 。16年のOECD加盟国の学級規模の平均は、小学校で1クラスあたり21人、中学校で23人となっています。そこで学級規模をOECD平均に近づくように、すべての学校で教員の数を増やしてはどうでしょうか。
具体的には1クラス20人を目指すべきだと私は考えます。教員数を増やして1クラスあたりの児童・生徒数を減らせば、それぞれの教員の業務量は削減できます。教員が一人ひとりの子どもと向き合う時間も増え、教育の質の向上にもつながります。
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教育の新自由主義改革によって増加・煩雑化している教員の事務作業に歯止めをかけることも必要です。これは事務職員などの増員で対応できると思います。
そして、何といっても給特法の廃止または抜本見直しです。給与総額の4%という「教職調整額」の元になったデータは、旧文部省の「教員勤務状況調査」(1966年)です。当時の教員の超過勤務時間は、小・中学校で週あたり平均1時間48分でした。つまり「教職調整額」自体、現在の教員労働の状況に全く見合っていないのです。給特法の廃止または抜本見直しによって、超過勤務手当を支払う仕組みになれば、追加人員の補充や業務の削減に行政が必死で取り組まざるを得なくなります。それは教員の過剰労働を是正する大きな力となるでしょう。
子どもや若者を育てる教員という仕事は、社会全体にとって重要です。教員不足を生み出すほど労働環境を悪化させてしまったことに、私は教育研究者の一人として強い責任を感じています。労働環境を一刻も早く改善し、教員が若者にとって「希望ある仕事」となるよう尽力していきたいと思います。