2025年2月13日は、高等教育費負担軽減を求める運動にとって、重要な1日となりました。
私は「すべての人が学べる社会へ 高等教育費負担軽減プロジェクト」の呼びかけ人として、24年5月28日からオンライン署名「高等教育費や奨学金返済の負担軽減のため、公的負担の大幅拡充を求めます!」を開始しました。署名の最終集約は25年1月31日に設定しました。それに合わせて2月13日には同プロジェクト主催の「高等教育費の負担軽減を求める院内集会」を参議院議員会館で行うことを決定しました。
会を準備する過程で、同日に現役学生たちも院内集会を行うことが分かりました。東京大学、広島大学、大阪大学、熊本大学、中央大学、武蔵野美術大学の6大学の学生が全国へ呼びかける形で、「苦しむ学生の声を聴く!」院内集会が衆議院第二議員会館で開催されるとのことでした。呼びかけを行った皆さんは、近年の学費値上げの動きに反対する運動に取り組んできています。
学生たちによる院内集会の実施には、次のような経緯がありました。24年5月、東京大学が打ち出した学費値上げに対して「東京大学学費値上げ反対緊急アクション」が立ち上がり、そこに「学費値上げに反対する中大生の会」が協同を申し出、さらに同年度にこの問題に取り組んでいた広島大学、熊本大学、武蔵野美術大学、大阪大学の学生団体が追随。呼びかけ先の大学に学籍を置くすべての個人・団体で連盟し、国に要請書を提出することを決定しました。
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彼らは何度も検討を重ね、当事者の視点から要請書を書き上げました。その内容は以下の4点です。
1. 近年行われた/来年度行われる学費値上げ撤回のため145.2億円を緊急措置してください。
2. 大学等の学費をまず10万円引き下げるために3,216.2億円を措置してください。
3. 少なくとも世帯年収650万円まで無条件に受け取れる給付型奨学金を拡充してください。
4. 上記項目は、国立大学法人運営費交付金、私立大学等経常費補助金、地方公共団体への国庫支出金等、大学等の基盤的経費に資する国からの支援金の増額により実現してください。
この要請には大きな反響がありました。最終的には、全国の95大学を含む116の高等教育機関の学生有志から賛同が集まりました。約2週間でこれだけ集まったということは、要請書の内容が多くの学生からの共感を得るものであったことを示しています。加えて院内集会への参加希望者も増加し、会場から溢れる可能性が出てきました。こうした状況の中、学生団体「学費値上げ反対全国学生ネットワーク」は2月8日、院内集会当日の15時30分〜19時過ぎに衆議院第二会館前での「同時スタンディング」を呼びかけました。
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こうして衆議院第二議員会館の内外で、学生による「学費値上げ」反対行動が組まれることになったのです。当日、私は勤務する大学の会議があったため残念ながら参加することはできませんでした。しかし幸いにもフリージャーナリストの犬飼淳さんの動画配信で、集会の様子を詳しく知ることができました。
「苦しむ学生の声を聴く!」院内集会では、高い学費と奨学金制度の不備によって多くの学生が苦しんでいる現状について重要な内容の発言が続きました。その学生発言の一部を要約して紹介します。
「20年度から学費値上げが行われました。学生からは『家庭状況が苦しく、毎日のバイトで身体を壊し、授業料納付の時期が来るたびに不安』との声が出ています。学費値上げ後の23年度『一橋大学 生活実態調査』でも経済的不安から誰かに相談せざるを得なかった人の割合は20%も増えています」(一橋大・Aさん)
「東京大学は十分な説明をせず、拙速な学費値上げを発表しました。大学の学費値上げは学生やその家族にとって深刻な負担となります。私自身、大学院進学をあきらめた理由の一つが学費の高さでした。私の家庭は妹も大学に行っており、経済的に余裕がありませんでした。大学進学時には奨学金を借りるしかありませんでした。大学院進学を考えた際、さらなる奨学金の借り入れが必要となり、将来の返済負担を考えると進学を断念せざるを得ませんでした」(東京大・Bさん)
「首都圏の大学に集中していた授業料の値上げが、地方国立大学にまで波及してきたことに強い危機感を抱きました。地方国立大学は経済的な事情を抱える人の受け皿となり、地域に根差した大学としてより多様な人の学ぶ権利を守る上で重要な役割を果たしています。さまざまな背景をもったすべての学生が学びをあきらめないために、そして安心して学問に取り組めるように学費値上げでなく値下げを、そして高等教育無償化の実現のために、あらためてお力添え願います」(広島大・Cさん)
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「本学は対話を重んじる少人数教育が特色の小さな大学です。しかし、その維持にはコストがかさむため、すでに高額な学費は段階的な値上げの途中で、3年後には年間160万円近くなります。そんな中で、ある学生が私費留学やボランティアをのびのびと楽しむ一方、ある学生はアルバイトや奨学金に振り回され、またある学生は経済苦から失意のうちに大学を去っていきます。大学を単なる営利事業でなく、魂ある教育機関たらしめ、理想の実践を守るのは行政の力です」(国際基督教大・Dさん)
「現在、多くの国立大学で徴収されている年間53万円の授業料は決して安くありません。特に地方学生にとっては大きな負担です。令和4年度の日本学生支援機構の調査によれば、熊大生の約3割が奨学金を借りています。地方学生の多くがすでに、こうした苦しい状況に陥っているのではないでしょうか? 今苦しんでいる学生がほったらかしにされ、学費が全国規模でさらに上がれば、大学進学そのものをあきらめる人も増えるでしょう。これでは地方国立大学の存在意義は弱まるばかりです」(熊本大・Eさん)
「留学生のみに対して、修学環境整備費の名目の下、年間36万3000円、4年間で145万2000円の学費の増額をしました。これは他大学と比較にならないほどの大幅な増額であり、この値上げにより、年間の学費は230万円に近いものとなります。さらに、この値上げは事前に留学生からのヒアリングや意見交換を行わずに進められ、突然ウェブサイト上で公示されました。その後、学内外から多くの反対の声が上がったにもかかわらず、大学側は整備案を見直すことはありませんでした」(武蔵野美術大・Fさん)
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ここでは一部の発言しか紹介できませんが、彼らの発言はどれも学費の高さや、奨学金制度の不備の中で苦しんでいる状況を切実に訴える内容でした。特に注目すべきは、発言者が国立大学と私立大学の学生、都市部と地方の学生、また学問分野もさまざまな学生を含んでいたことです。それは、この院内集会が日本全国の多様な学生の声を反映させたことを意味します。
このように多様な学生の声を反映させられたのは、要請書作成の段階から多方面との協議を粘り強く積み重ね、まとめ上げていった「呼びかけ」側の努力によるところが大きいと思います。彼らは要請書を「血のにじむ思いをしながら」作成したと院内集会で述べていましたが、そのことで連帯の輪が広がり、内容の充実にもつながりました。この院内集会は会場とオンラインを合わせて250名以上の参加がありました。