ここから見えてくるのは、「結婚したい」と望んでも実現性があまりないので、諦めた結果が「結婚したいと思わない」という回答につながっている可能性です。「結婚したいと思わない」という回答が自由意思によるものなのか、それとも結婚を諦めてのことなのかは、重大な違いです。収入の低さと住居費の高さを考えれば、「結婚したいと思わない」という回答を額面通り受け取るのではなく、若者が未婚を強いられている可能性を考慮に入れる必要があると思います。
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そして『若者の住宅問題』では、若者の住居費負担についても調査を行っており、ここでは「住居費なし」と回答した比率が29.8%となっています。また「負担なし」と回答した人も37.8%にものぼります。これらは住宅を持っていて住居費自体がかからないケース、同居する親などが住宅ローン返済や家賃負担を行い、本人はそれに頼っているケースをあらわしています。両者を合わせると、実に67.6%が住居費を全く支払っていないことになります。
その一方で、残りの3割強は「負担あり」となっています。このうち手取り収入に対する住居費率が30%以上という人が57.4%で、中には住居費率50%以上という人も30.1%に達しています。住居費の「負担あり」と答えた人の場合、その負担割合はいずれも非常に高く、若者の生活を強く圧迫していることが分かります。
これらの調査結果によって、多くの若者が親との同居を強いられている全体像が明らかになり、そうすることで住居費の支出を避けられている若者と、自立生活を選んだがゆえに家計が逼迫している若者との格差についても読み解くことができました。
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ここまで述べたように、『若者の住宅問題』の先駆性や画期性は明らかです。
さまざまな統計データを見ても若者の親同居率は、その後も高止まりの状態が続いています。総務省統計局「令和2年 国勢調査」によれば、20年の30~34歳の未婚率は男性が51.8%、女性は38.5%とどちらも5年前の調査結果を上回っています。合計特殊出生率は『若者の住宅問題』が出された14年の1.42から、21年には1.30まで低下し、出生数も100万1000人から81万1604人に減少しています。若者の高い親同居率、未婚化と少子化が続いているということは、同書が提起した問題が構造的であり、未だ多くの若者がハウジング・プアに苦しんでいることを示しています。
今から9年前、『若者の住宅問題』によって問題提起が行われたにもかかわらず、残念ながらこれまで社会運動の力で日本の住宅政策を大幅に転換させることはできなかったと言えるでしょう。そのことは社会運動の課題であると同時に、戦後日本で確立した、正規雇用男性労働者の「標準型」ライフコースに基づいた、「持ち家」中心で「商品化」を是として進められてきた住宅政策の根強さをも示していると思います。
しかし、この住宅政策を転換させることができなければ、この先も多くの若者は救われません。『若者の住宅問題』の作成に参加された稲葉剛、藤田孝典の両氏は冒頭で紹介した「学びと住まいのセーフティネット研究チーム」のメンバーでもあります。若者の住宅問題に今再びメスを入れ、ハウジング・プアに苦しむ若者を一人でも多く救い出せるよう提言をまとめたいと考えています。