〈周りの声が聞こえないようにイヤホンをした上にイヤーマフをつけたけど、隣の席を空けて配置などなく普通の教室の席の距離感でやってた為、隣の人などの近い席の人の声が聞こえた、試験始めるボタン自体自分で押すためそこでカンニングができてパクって回答することが可能になってしまった〉(中学3年生)
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このように「イヤーマフを正しく装着していても他人の声が聞こえた」という回答が集まっています。彼らの証言が正しければ、都教委の「イヤーマフを正しく装着すればテストに影響は出ない」という判断は誤りということになります。本人は正しく装着していたつもりでも、うまく装着できていなかった可能性も十分あるでしょう。しかしそのあたりは、試験にのぞんだ生徒に聞くほか確認しようがありません。
「入試改革を考える会」と「都立高校入試へのスピーキングテスト導入の中止を求める会」は、23年1月30日、浜佳葉子都教育長と都教委に対し、試験当日の「音漏れ」を含むトラブルについて受験した生徒およびESAT-J担当教員を対象に実施状況調査を行うことを要望しました。しかし、この要望は受け入れられませんでした。「イヤーマフを正しく装着しても他人の声が聞こえたという証言」の真偽を確認する作業が行われていない以上、「イヤーマフを正しく装着する」という都教委の対応が不十分であることは明らかです。
次にこの対応策の前提にある「音漏れはあったが解答に影響はなかった」という都教委側の主張ですが、そこには根拠となるものがありません。「解答に影響はなかった」ことが分かるのは受験した生徒本人だけですが、現時点まで都教委による生徒への聞き取り調査は行われていないのです。しかるべき調査が行われない以上、「音漏れはあったが解答に影響はなかった」という説明は信頼性が薄いことになります。
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しかも問題点は、イヤーマフの装着の仕方だけではないということです。「#ESATJ実施状況調査」では、同一問題を前半後半に分けて実施したことで前半受験の生徒の声が後半受験の生徒に聞こえたという証言、前半受験の生徒と後半受験の生徒が休み時間中に接触したという証言、出題の聞き取りや解答に使うタブレット端末に自分以外の受験生の声が入っていたという証言など、多くの問題点が示されました。しかし、これらの問題点の指摘への対応は行われていません。
市民団体や「英語スピーキングテスト議連」がESAT-Jについて調査を行い、多数の証言を集めた事実に対して誠実に対応しない姿勢が、都教委の最大の問題だと思います。主権者である生徒一人ひとりの声、都民の声に耳を傾け、子どもの「教育を受ける権利」(日本国憲法第26条)を守ることが、教育行政の使命であるにもかかわらず、それを裏切っているのです。こんな姿勢では、ESAT-Jのトラブルを解決することはできませんし、受験生や都民からの信頼を得ることも不可能でしょう。
こうした現在の東京都教育行政を、どうやって変えていくかが問われています。私にできることは教育の専門家として発言すること、そして東京都の住民として声を上げることです。22年9月9日、ESAT-Jが入試の公平性・公正性に反し、また個人情報保護法制違反であるとして、私は多くの仲間とともに東京都に住民監査請求を行いました。請求が却下されたことを受けて、同年11月21日、私は原告の一人として住民訴訟を起こしました。
住民訴訟は私にとっても初めての経験です。裁判の形式をめぐる協議が長く続きましたが、23年10月13日の弁論準備手続期日での協議を経て、第1回「口頭弁論期日」が12月6日の午前11時~となり、東京地方裁判所の522号法廷でようやく裁判が始まります。
ESAT-Jの住民訴訟は入試における公平性や公正性、生徒の個人情報の扱いなど、教育に関して極めて重要なテーマが争われています。一人でも多くの人に、この住民訴訟に関心を持っていただきたいです。