日本における新型コロナウイルス感染は、新規感染者数だけを見れば一時期よりも落ち着いているように見えます。が、いわゆる「コロナ災害」は社会のより深い部分に着実に浸透してきています。
学生を始めとする若者から私への相談内容も、2020年の3~4月時点では「アルバイトのシフトが減りました」「アルバイトを辞めさせられて、収入がなくなりました」という労働面での相談が大半でしたが、8月以降になると生活全般の相談が増えてきました。それは「コロナ災害」の影響が、収入減少による当面の金欠から、生活そのものの危機へと深化していることを意味していると思われます。
私は若者の実態を知るために、自分のツイッターアカウントから定期的に下記の内容のツイートを発信しています。実際のツイートでは、前後に異なる言葉を付け加えていますが、下記の部分は共通しています。
〈学生のリアルな実態を社会に伝えたいです。「コロナ災害」によるアルバイトや収入の減少で学費(秋学期の学費支払いが近づいています)や生活費に困っている方は、私のツイッターにDM(ダイレクトメッセージ)を送ってください〉
この私の発信に対して、全国の学生からDMが定期的に届いています。8月以降、メッセージの数は着実に増加しており、若者たちの生活困難が深刻化していることが読み取れます。例えば次のような声が届きました。
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国立大学に通うAさん
〈コロナによる経営悪化で、父の会社の(勤務先)部署がなくなることになりました。父は現時点で年収100万円ほどのカットが確定し、もうあと100万円ぐらいは減らされる可能性が高い、とのことです。父は転職を視野に入れており、都市部の会社の面接を受けるなどしていますが、この時期ということもあり、難航しているようです。加えて私は弟がいて、今年から私立高校に通い始めました。奨学金も借りているのですが、その分の学費もあと2年分あると思うと先は暗いです。私は生活費を奨学金とバイトで稼いでいたのですが、4~6月の収入はほぼ無く、8月からやっと収入が元に戻るというありさまで、その間は貯金を崩して生活していました。〉
Aさんの状況はかなり深刻です。大学の後期授業料の免除申請をしたものの、その際に提出を求められた父親の源泉徴収票や所得・課税証明書は昨年度のもので、減給前の給与所得によるものだとのことです。その金額を免除対象者基準の計算式に当てはめると、「免除を受けなくてもいい人」になってしまいます。現在の授業料免除制度が、「コロナ災害」による収入の急減という状況に対応し切れていないことが分かります。
また、次のようなメッセージもありました。
私立大学に通うBさん
〈コロナで父の鬱が再発して仕事を失い、5月以降は母のパートと貯金のみで親子3人と祖父で生活しています。そんな中、後期の学費60万円程の支払いが近づいています。今、給付型奨学金を申請中ですが、審査は厳しいと念をおされました。〉
私立大学に通うCさん
〈最近、家族で主たる収入を稼いでいた母親がコロナの影響で無職になり、急遽自分で学費を払うことになりました。学費の延納申請を行い、1カ月間の支払いの猶予が与えられました。これから1カ月の間に60万円を用意しなければなりませんが、それを自分で支払うのはとても大変です。〉
Aさんに続いて、BさんとCさんの事例に共通して言えるのは、コロナ災害の影響が学生バイトだけではなく、学生の親・保護者の雇用や収入にもおよび始めているということです。
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こうした状況の背景には、雇用情勢の悪化があります。総務省が10月2日に発表した8月の労働力調査(基本集計) によると、完全失業率は2カ月連続で悪化し、3.0%となりました。3%台は17年5月(3.1%)以来、3年3カ月ぶりです。完全失業者(原数値)は206万人で、前年同月比で49万人も増えました。失業者の増加は7カ月続いています。新型コロナに関連して解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は、9月25日時点で6万923人でした。製造業と飲食業でそれぞれ1万人前後に達しています。
主たる学費の支払いを親・保護者が行っていた場合、失業や収入の大幅な減少は、学生生活を窮地に追い込むことになります。国立、私立大学ともに学費は高騰していますから、アルバイトで学費ぶんのお金を用意することは、短期間では極めて困難です。アルバイトで何とかしようとすれば、大変な無理をしなければなりません。
次のDさんの事例はそのことをよく示しています。
私立大学に通うDさん
〈年間約120万円の学費を自分で払っています。平日昼間はコンビニでバイトをして、土日はイベント会場でバイトをしていました。コロナによって2つのバイトの収入が減ってしまい、深夜のバイトを新たに始めました。睡眠時間の確保ができずに、ギリギリの生活を送っています。〉
アルバイトを2つかけもちしていたものの、収入が減って3つ目のアルバイトを始めたという声です。学生と話していると「バイト2つのかけもちはきつい」という声をよく聞きます。拙著『ブラックバイトに騙されるな!』(16年、集英社クリエイティブ)でも考察したように、最近はどのアルバイトでも業務内容や拘束の強化が顕著に進んでいて、アルバイトをかけもちすることの負担は相当なものになっています。
2つのアルバイトのかけもちでさえ大変なのですから、3つともなれば心や体にかなりの負荷がかかるでしょう。確かに学費ぶんのお金を稼ぐことはできるかもしれませんが、睡眠・休息時間の確保ができず体を壊してしまう危険性があります。秋学期(後期)の学費支払いの締め切りに間に合わそうとすれば、こうした学生が今後大量に出てくることが懸念されます。
さらには、学費は自分で稼ぐしかないという状況にありながら、コロナ災害の影響でアルバイトを禁じられたという学生もいます。
看護専門学校に通うEさん
〈新型コロナウイルス感染症対策のため、実習期間の学生はアルバイト禁止を学校側から命じられました。また、アルバイトをしていることが発覚した学生はその時点で停学になり、停学になると出席日数不足のため留年するという説明を受けました。学費の安い学校のため、裕福ではない家庭出身の学生が多く、私も母子家庭でアルバイト代から生活費を捻出していました。現在は市内の病院が独自で行っている奨学金(借りた年数分働けば返済不要となるもの)で賄っている状態ですが、借りている先の病院も新型コロナウイルス感染症の影響で就職試験及び来年度の新卒採用を見合わせており、来年度以降の返済の目処も立っていないのが現状です。〉
実習先に感染リスクを持ち込ませない、という学校の方針は理解できます。しかし、裕福ではない家庭出身の学生が多いというのですから、十分な支援策抜きにアルバイトを禁止するのは、問題ありと言わざるを得ません。他にも実習のある専門学校に通う学生が、アルバイトを禁止されたという情報は私の所に複数届いています。そうしたことからも学校が学生にアルバイトを禁じる風潮は、かなり広がっている可能性があります。
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8月以降の学生からの相談から、学生の困窮が深まっている状況が見えてきます。こうしたなかで、大学・短大・専門学校等の秋学期(後期)の学費支払い日が近づいてきました。私は2020年秋学期(後期)の学費の支払いと学生生活は、今年の春学期(前期)よりも困難となる可能性が高いと予想します。
第1の理由は、学生アルバイトの減少が続いていることです。
全国大学生活協同組合連合会(大学生協連)は、7月20~30日にかけて「緊急! 大学生・院生向けアンケート 」を実施しました。そこではアルバイト収入の変化についての調査も行われています。それによると「新型コロナウイルス感染流行前と比べて、収入が戻ってきた」という回答が約17%で、一部では回復しつつあるようです。