2020年末から21年の年始にかけても、東京都内では「コロナ災害」によって困窮するに陥った人々のための支援活動が続けられました。
新宿区の大久保公園では労働組合や労働問題に取り組む弁護士が中心になって、「年越し支援・コロナ被害相談村」の取り組みが行われました。実行委員会によると、12月29・30日、1月2日の3日間の利用者は337人(男性274人、女性57人、不明6人)。対応にはボランティア350人が参加しました。
また貧困問題に取り組み、生活困窮者を支援する約40団体で作る「新型コロナ災害緊急アクション」は1月1日と3日、千代田区の聖イグナチオ教会で「年越し大人食堂2021」を開き、食料の配布と生活・労働・医療などの相談会を行いました。2日間に650人以上の利用者に食事を提供し、100件以上の生活相談がありました。
新型コロナの影響は、若者の食生活にもおよんでいます。最も衝撃的だったのは、NPOフードバンク山梨が行ったアンケート調査の結果です。この調査は20年10~11月に同団体が食料支援をした山梨大学、都留文科大学の学生約110人を対象に実施されました。調査では、食事回数を「1日2回」と回答した学生の比率は47%で、全体の半数近くに達しました。また「1日3回」と回答した学生も、その約3割が「1回の食事量を減らしている」と答えました。新型コロナの影響で生活にかけられるお金が減り、食費を切り詰めている学生の実態が明らかにされました。
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こうした学生への食料支援は20年春以降、大学教員、学生ボランティア、学生団体、生活協同組合、JA、フードバンク、NPOなどによって全国各地で行われています。例えば20年12月13日に熊本大学に近い熊本市内の公園で、地元の学生らが実施した食料無料配布会では、想定を上回る100名以上の困窮学生が朝から長蛇の列を作りました。他にも「食料支援を求めて学生が行列する」現象は全国各地で広がっており、若者たちの困窮の深刻さをあらためて痛感させられます。
困窮する学生が急増した直接の要因が、コロナ災害によるアルバイト雇用の減少にあることは明らかです。しかし私がここで重要だと思うのは、学生の貧困は「新型コロナ以前からすでに深刻になっていた」という視点です。
全国大学生協連の「学生生活実態調査」によれば、1995年から2019年にかけて下宿生への仕送り金額は大きく減少しています。月の仕送り金額が10万円以上の割合は、1995年の62.4%から2019年の27.9%まで大幅に低下しています。それに対して月5万円未満(0円を含む)の割合は、1995年の7.3%から2019年の23.4%へと大幅に上昇しています。
日本学生支援機構の「学生生活調査」の結果では、2004年の下宿している大学生(昼間部)の1年間の生活費(全支出から「授業料」と「その他の学校納付金」を引いた額)は、130万6700円でした。また、18年度の下宿している大学生(昼間部)の1年間の生活費は121万9600円でした。つまり近年の大学生の1カ月あたりの生活費は、おおよそ10万円~11万円の間と予測できます。
1995年当時、月10万円以上の仕送りを受けていた下宿生が6割以上だったということは、大半の学生が生活を親・保護者に支えられていたことを意味します。従って当時の学生たちにとって、アルバイトは生活費を稼ぐためのものではなく、サークルや旅行、趣味などで「自由に使えるお金」を稼ぐためのものだったと見ることができます。しかし、その後の仕送り額の急速な減少は、多くの学生が親・保護者からの支援だけでは大学生活を続けられなくなったことを示唆しています。
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そこで仕送り額の減少を補ったのが「奨学金」です。大学生の奨学金利用は1990年代後半から急速に増加します。90年代半ばまでは、大学生の奨学金利用率は2割をやや上回る比率で、安定した状態にありました。それが98年以降、利用率は急上昇し、2012年には52.5%と全体の半数以上になりました。
奨学金利用率の上昇率は、下宿生の仕送り額の減少とほぼ重なっています。そこには、奨学金制度の変化も影響を与えていました。日本の奨学金の多数を占めている日本学生支援機構(2003年度までは日本育英会)の貸与型奨学金は、1990年代後半までは貸与人数・貸与額の双方で無利子中心の構造が維持されていました。例えば98年度では、無利子貸与が貸与人数全体の約71%、貸与額においては73%を占めていました。
こうした状況を大きく変えたのが、99年の「きぼう21プラン」です。これによって貸与に関する学力基準や家計基準が緩和され、有利子奨学金の貸与人数の大幅な増加が行われました。この制度改革が、有利子貸与型奨学金の利用者増を促進したのです。
貸与型奨学金は、卒業後に返済が必要です。2010年代に入ると、雇用状況の悪化もあって奨学金を返済できなくなる若者が増加しました。12年以降は奨学金制度の問題点を強く訴える社会運動が活発化し、奨学金返済の大変さがマスメディアを通して大々的に報道されました。そのため貸与型奨学金の利用を可能な限り避けようとする意識が、市井の多くの人々にも浸透することとなりました。
このため12年に52.5%に達していた奨学金利用率はそれ以降低下し、18年には47.5%となりました(日本学生支援機構「学生生活調査」のデータによる)。全国大学生協連の「学生生活実態調査」でも、奨学金利用率は11年の37.9%から19年の30.5%に低下しています。同調査によれば、下宿生の1カ月あたりの奨学金利用額も、10年の2万6740円から19年には2万900円まで減少しています。
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学費の高騰に加えて、仕送り額の減少傾向は相変わらず続いていますから、学生の経済状況が改善している訳ではありません。奨学金利用率の低下は、貸与型奨学金が卒業後に重い借金となることを恐れ、利用を忌避する意識が広がったことに大きな要因があります。