仕送りもダメ、奨学金もダメという中で、多くの学生は「自由に使えるお金のため」ではなく、「学生生活を続けるため」にアルバイトを増やさざるを得ない状況に追い込まれていきました。2013年6月、私は「学生であることを尊重しないアルバイト」のことを「ブラックバイト」と名づけました。この時期にブラックバイトを発見することになったのは、アルバイトをすることが10年以降、多くの学生にとって「死活問題」となり、職場で理不尽な目に直面しても我慢せざるを得ない学生が大量に登場したからだと思います。
ブラックバイトを社会問題として提起して以来、私は多くの人々に学生の貧困化を訴えてきました。そこでの経験から学生の貧困化は、当事者である学生以外の人に理解してもらうのはかなり困難であるという印象を持っています。その理由の一つは、今の学生たちと生活する時間・空間を共有していないこと、もう一つの理由は、自分たちの経験を基準に学生生活を連想しがちだからではないかと思います。
分かりやすい数字として、東京私大教連の「私立大学新入生の家計負担調査」のデータがあります。ここでは仕送り額と家賃の平均額が調査されています。この仕送り額から家賃を引き、30で割れば1日あたりの生活費が計算できます。光熱費や食費などが差し引かれますから、仕送り額と家賃の差額のすべてを使うことはできませんし、もう一方でアルバイトや奨学金の収入が加わりますから正確な数字とはいえません。しかし、学生生活費の大まかな目安にはなるでしょう。
東京私大教連のデータから大学生の1日あたりの生活費を計算すると、1990年の2460円から2018年には677円に減少しています。この間に物価が大幅に下がったということはありませんから、学生たちの1日あたりの生活費が減少していることは明らかでしょう。
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1日あたりの生活費と直結するのが食費です。私の知っている学生の中にも、コロナ災害前から300~500円程度の大学食堂での昼食を、「値段が高い」といって敬遠する学生が増加していました。以前、関西の有名なマンモス私立大学での講演前に学生食堂に行ったら、5人の男子学生グループを見かけました。彼らは学生食堂の料理は食べず、全員揃ってコンビニで消費税込み200円前後のカップラーメンを買い、さらに全員が水筒を持参していました。その様子を見て、食費を抑えている学生が全国に広がっていることを痛感しました。
私は大学教員として勤務して今年で23年目となりますが、近年、体調を崩しやすい学生が増えていることを強く感じています。深夜までおよぶアルバイトによる睡眠不足や生活習慣の乱れ、そして貧しい食生活が影響しているのではないかと私は危惧しています。
このように2020年のコロナ災害で「食料支援に行列する」学生が登場した裏には、1990年代半ば以降の仕送り額の減少、貸与型奨学金の利用抑制によって進行してきた学生の貧困化があるのです。コロナ災害は、アルバイトなしには成り立たなくなっていた現代の学生の貧困をあぶりだすこととなりました。
文部科学省の調査によれば、20年10月までの大学・大学院の退休学者は19年同月よりも少なくなっており、幸いにも退学や休学に追い込まれる学生の急増という状況は今のところ生じていません。しかし「食料支援に行列する」学生の登場は、学費は払えても生活が行き詰まっているという若者をとりまく状況が深刻化していることを意味します。多くの学生が要求する「学費の引き下げ」に加えて、自宅外学生に向けた家賃補助の導入や給付型奨学金の拡充など、抜本的な対策が求められていると思います。