非政府組織(NGO)と国際赤十字社・赤新月社の運動が2000年に刊行した『スフィア・ハンドブック』において定めた、人道憲章と人道対応に基づく避難民保護の最低基準。この基準が生まれた発端は、1994年のアフリカのルワンダ大虐殺である。国連によればおよそ80万人が殺害されたこの大虐殺が起こる前から、ルワンダには国連の平和維持軍が展開していたが、虐殺を抑止する活動には消極的であった。さらにこの際、難民キャンプにおける避難民の保護も不十分であったため(たとえば国際赤十字社は、生存に必要な最低限の飲料水しか提供しなかった)、その反省に立って定められたのがスフィア基準である。
スフィア基準は、「人道憲章、権利保護の原則、コア基準」の3つの共通の土台と、生命保護のために必要不可欠な、(1)給水、衛生、衛生促進、(2)食料安全保障と栄養、(3)避難所および避難先の居住地、(4)保健医療――の各分野における最低基準を定めている。また、2018年版『スフィア・ハンドブック』では、人道的見地を第一とする、支援は人種や信条などで差別せずその優先順位は必要性のみに基づいて決める――などの「行動規範:10の主原則」を掲げた。
日本においては、16年、内閣府(防災担当)『避難所運営ガイドライン』の中で、災害時の「避難所の質の向上」を考える上で参考にすべき国際基準としてスフィア基準が紹介された。これを受けて自治体でも率先して導入する動きが強まっている。ただし、これを日本の状況にそのまま当てはめて考えることはできない。たとえば日本では、災害対応においては自己責任が原則になっていることに留意する必要がある。避難所運営についても、いきなり行政による「公助」が前面に出るのではなく、「自助」と自主防災組織やボランティアなどの「共助」を組み合わせて協働する必要があろう。これは、先の「10の主原則」とも適合している。
スフィア基準では、避難当初は混乱するので避難所の質は時間経過に従って充実、改善させるべきことも示されている。たとえば給水、衛生の項目では、初期段階では共同トイレは50人に1基、中期段階では20人に1基といった基準を提示するなど、基準を状況と時間経過に合わせることの必要性が示されている。