1990年代から展開されている貨幣に関する経済理論。非主流派である「ポスト・ケインズ派」の流れをくんでおり、主流派とは異なった主張を行っている。主な提唱者は、ウォーレン・モズラー、ビル・ミッチェル、ランダル・レイ、ステファニー・ケルトンといった経済学者である。
2019年、アメリカの下院議員アレクサンドリア・オカシオ=コルテスが、再生可能エネルギーを100%にするための政策「グリーンニューディール」の財源として、赤字国債を挙げた。それをきっかけに、MMTをめぐってノーベル賞受賞者であるポール・クルーグマンなどの主流派経済学者を交えた議論が巻き起こり、特に、MMTに基づいた「自国通貨を持つ国の財政赤字そのものは問題にならない」という主張が世界的に注目を集めるようになった。
MMTの基盤を成すのは、「信用貨幣論」と「租税貨幣論」だ。
「信用貨幣論」は、貨幣とは債務の記録であるという考え方だ。現代の貨幣の多くは預金であり、預金は民間銀行が預金者に債務を負っていることを示している。
貨幣が銀行の帳簿に記された債務の記録に過ぎないのであれば、万年筆によっていくらでも生み出せることになる。そうした貨幣のあり方を「万年筆マネー」という。ただし、現代では預金はコンピューター上のデータであり、コンピューターのキーボードをたたくことによって生み出される。これを「キーストロークマネー」という。
主流派経済学の教科書には、民間銀行が集めた預金が貸し出しに回されるという「又貸し説」が掲載されている。MMTはこの又貸し説を批判しており、民間銀行が企業などに貸し出す際にキーストロークによって貨幣が作り出されると論じている。ここから、貨幣量は資金需要に応じて増減するという「内生的貨幣供給理論」が展開される。
政府支出の際にも貨幣は無から生み出されるということをMMTは強調している。ただし、現行の制度では政府支出の際には「政府預金」の残高が必要とされる。その残高を増やすためには、国債発行か徴税を行わなければならない。
これについて、政府が赤字国債を発行し続ければ、その総額が民間金融資産の総額を上回り、民間銀行が国債を買い入れることができなくなって財政が破綻するという議論がある。だが、そもそも民間銀行が国債を買い入れる際に必要な通貨(預金準備)は、一般的には中央銀行が作り出して供給しているので、民間銀行が国債購入のための資金をファイナンスできなくなるという事態は発生し得ない。現行制度でも、政府預金のための資金は、間接的に中央銀行が提供しているのである。
したがって、国債発行も租税も財源確保のために必要なわけではなく、財政赤字そのものは問題にならない。国債は、金利調整のために発行されているとMMTは主張する。租税については、「租税貨幣論」に基づいてその役割が論じられている。
「租税貨幣論」とは、貨幣が価値を持つのは、納税に必要だからとする考え方だ。そうして価値付けされた政府(中央銀行)の債務である現金(および預金準備)によって、民間銀行の債務である預金の価値が裏付けされる。このような債務の階層構造を「債務ピラミッド」という。
租税には、インフレの抑制という役割もある。徴税すると市中の貨幣がその分、消滅するからだ。逆に、政府支出の増大はインフレを引き起こす可能性があるので注意が必要である。
ただし、MMTの主唱者は、適切なインフレ率になるように政府支出や租税の額を裁量的に調整せよと積極的に主張しているわけではない。代わりに、政府が希望する失業者を全て雇い入れる「雇用保障プログラム」(Job Guarantee Program)を提唱している。
このプログラムは、完全雇用をもたらすだけでなく、景気に対して自動安定化作用を及ぼす。すなわち、景気が悪い時には雇い入れる労働者が増大することで政府支出が増大するので、景気を活性化する効果を持つ。逆に、景気が良い時には雇い入れる労働者が減少することで政府支出が減少するので、景気を抑制化する効果を持つ。
ちなみに、金利を操作する金融政策については、効果が不安定でマクロ経済政策として妥当ではないとMMTでは考えられている。したがって、金利調整の手段である国債を発行する必要はなく、国債廃止論が唱えられている。