DX(デジタル変革)という言葉は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が、「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という意味で提唱したとされているが、明確な定義はない。Digital TransformationをDXと略すのは、「Transformation」が「X-formation」と表記されるため。
経済産業省の「DX推進ガイドライン」は、DXについて、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義している。
この言葉の意味する範囲は識者によって異なるものの、デジタル技術を使うことで新しいビジネスを創り出したり、すでにあるビジネスを強くしたりすることを指している点では共通だ。
DXという概念が登場した背景には、クラウド、センサー、無線通信、機械学習、スマートフォンなどの普及がある。デジタル化は、水位や流量などの河川情報のテレメータ観測、自動販売機の管理システム、エレベータの状態監視システム、公共バスの運行管理システム、店のPOS システムなど、以前からいろいろなところで行われてきたが、デジタル技術の進展によって、このようなデジタル化の動きがあらゆる領域で進み、事業や組織や社会が大きく変わる可能性が出てきたのだ。
リアルな世界から無線通信技術でデータを集め、それを解析してリアルな世界にフィードバックする。この一連のループを回す。リアルな世界からデータを収集するためのテクノロジーとしてIoT(モノのインターネット)、5G(第五世代移動通信システム)があり、AI(人工知能)が蓄積したデータを分析・解析する。このようにして、現場に存在する課題やニーズを把握し、そこから新たな価値を創造するプロセスが、DXなのである。
DXは、必ずしも最先端のテクノロジーを必要とするものばかりではない。例えば、街のごみ収集のスマート化などは、SIMカードとセンサーとをごみ収集ボックスに設置するだけで可能だ。これによって回収事業者は、現場に行かずとも、ごみの量を把握することが可能になる。毎日だった回収頻度を3日に1度で済ますことも可能になる。
スマートフォンがカメラ業界や音楽業界などを取り込んでいったように、多くの産業分野でデジタル化が進んでいけば、事業領域の再定義が加速されるだろう。例えば、車の自動運転が実現すれば、ソフトウェアの比重が増大し、自動車産業はソフトウェアとデータを付加価値の源泉とする業界に変わっていく。業界の枠が消え、異業種が入り乱れての競争が促されるようになるだろう。