2021年のノーベル賞6部門が、同年10月に発表され、同年12月10日にメダルなどが授与された。
医学生理学賞は、米カリフォルニア大サンフランシスコ校のデービッド・ジュリアス教授と米スクリプス研究所のアーデム・パタプティアン教授に贈られた。授賞理由は「温度・触覚の受容体の発見」。ジュリアス教授は熱に反応して信号を脳に伝える細胞表面のタンパク質を、パタプティアン教授は表面をつつくとその圧力に反応して脳に信号を送るたんぱく質を、それぞれ発見した。これらの発見は、慢性的な痛みの治療についての研究などに生かされている。
物理学賞は、米プリンストン大の真鍋淑郎・上席研究員、独マックス・プランク研究所のクラウス・ハッセルマン教授、伊サピエンツァ大のジョルジョ・パリージ教授に贈られた。授賞理由は「複雑な物理システムの理解に向けた画期的な貢献」。真鍋研究員は60年代にコンピューターによって気候の変化を再現する方法を開発し、二酸化炭素(CO2)の増加によって地球の温暖化が進むことを指摘。ハッセルマン教授はこの研究を進展させ、再現の精度を高めた。パリージ教授は、複雑な物理現象の中に潜む法則性を理論化した。
化学賞は、米プリンストン大のデービッド・マクミラン教授と独マックス・プランク研究所のベンジャミン・リスト教授(北海道大特任教授を兼務)に贈られた。授賞理由は「不斉有機触媒の開発」。化学物質を合成する際に必要な触媒としては酵素と金属があるが、両氏は第3の触媒を研究し、有機物でできた触媒をそれぞれ独自に開発した。金属よりも安く環境に優しいもので、インフルエンザ治療薬や抗うつ剤などに応用されている。
文学賞は作家のアブドゥルラザク・グルナに贈られた。授賞理由は「植民地主義による影響と難民の運命への洞察力」。東アフリカの英領ザンジバル(現タンザニア)に生まれ、難民としてイギリスに移住し、ケント大教授として文学を教えた。1987年に最初の小説『Memory of Departure』を発表。以後、長編小説10作と多くの短編を発表した(すべて未邦訳)。94年に発表した『Paradise』は、イギリスの文学賞「ブッカー賞」の最終候補作にもなった。
平和賞は、ロシアの独立系リベラル紙の編集長であるドミトリー・ムラトフと、フィリピンのジャーナリスト、マリア・レッサに贈られた。授賞理由は、民主主義と報道の自由が逆風にさらされている世界で表現の自由を守る努力を行ったことなど。両氏とも、強権的な政権に対して暴力や投獄に屈せずに批判的な報道を続けてきた。
経済学賞は、米マサチューセッツ工科大のジョシュア・アングリスト教授、米スタンフォード大のグイド・インベンス教授、米カリフォルニア大バークレー校のデービッド・カード教授の3氏に贈られた。授賞理由は、データ分析手法を洗練させたこと。アングリスト教授とインベンス教授は、変化の前後などを比較する「自然実験」という手法を確立。カード教授はこの「自然実験」を使って、最低賃金の引き上げが雇用の減少につながるわけではないことを実証的に明らかにした。
ノーベル賞の授賞式は例年、ノルウェーのオスロで12月10日に行われ、その後は晩餐会も開かれるが、昨年に引き続き、今年も新型コロナウイルスの影響を考慮して、平和賞以外の受賞者は授賞式に参加せず、居住する各国でメダルを授与されるかたちとなった。