ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物と呼ばれる、炭素とフッ素が結合した有機フッ素化合物のこと。約5000種ある有機フッ素化合物のうち、PFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)という二つの化合物を合わせたもので、日本国内では2020年、PFASについての環境水(河川、湖沼、海などの水)指針値(1リットル当たり50ナノグラム)と飲料水目標値(同50ナノグラム)が設定された。近年、沖縄を始め、東京などの地下水や河川が、米軍基地から流出したとみられるPFASで汚染されていることが問題となっている。
PFASは撥水性、撥油性に優れ、焦げ付かないフライパンや、水をはじく靴や服、じゅうたん、ファストフードの容器、ウォータープルーフの化粧品、泡消火剤、半導体など産業用、工業用製品に多用されてきた。しかし化学的に安定度が高いため、その分解に850度以上の高温を要する。また環境中に放出されると、微生物の分解を受けず残り続け、人体に取り込まれると長く蓄積してしまうため「永遠の化学物質(フォーエバーケミカルズ)」と呼ばれ、有害性が問題になっている。欧州環境庁(EEA)は、健康への悪影響として、腎臓がん、精巣がん、肝疾患、甲状腺疾患、高コレステロール血症、低出生体重、ワクチン接種効果の低減、乳腺の発育不全などを挙げている。
「残留性有機汚染物質に関るストックホルム条約」(2020年3月現在、181カ国及びEUなどが締結)でPFOSは附属書B(製造、使用、輸出入を制限すべき物質)に、PFOAは附属書A(廃絶すべき物質)に掲載されている。国内では「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」で製造や使用、輸入が制限されている。
2000年代に入り、国内外でPFASによる土壌や水源汚染が明らかになっている。2002年、京都大学医学研究科が全国の河川などを調べた結果、多摩川(東京都)や大阪空港周辺の猪名川で高濃度のPFOSが検出された。また淀川流域では、ダイキン工業淀川製作所からの排出による高濃度のPFOAが検出された。
現在、国内で最も大規模な汚染が起きているのは沖縄県である。2016年、沖縄県中南部7市町村45万人の水道水源となっている河川や地下水から高濃度のPFASが検出された。沖縄県は水源上流部に位置する米軍嘉手納基地から漏出したPFAS含有の泡消火剤による汚染とみている。しかし米軍施設の管理権は、日米地位協定第三条で米軍に委ねられているため、沖縄県が立ち入り調査を実施できず、汚染源を特定することができない。
また、2020年4月には、宜野湾市にある米軍普天間基地から約22万7100リットル(原液ではなく水で希釈された量)のPFAS含有泡消火剤が漏出し、このうち約14万3830リットル(原液ではなく水で希釈された量)が民間地の河川や海に流れ出す事故が起きた 。同基地では2021年8月に、米軍が保管していた約6万4000リットルものPFAS含有水を日本政府や地元の合意なく公共下水道に放出し、政治問題になった。
さらに2020年6月には、沖縄県北部の金武町でも水道水や地下水から高濃度のPFASが検出されていたことが発覚し、町が地下水の水道水利用を止める方針を明らかにした。汚染源は水源上流部にある米軍キャンプ・ハンセンである可能性が指摘されている。
一方、米軍は2020年に米国本土やマーシャル諸島にある651カ所の米軍施設で地下水や土壌が汚染されている可能性を指摘し、代替の泡消火剤との交換を始めている。米国ではバイデン政権下でPFASを有害物質に指定し、規制を強化する動きが出ている。