「人権・民主主義・法の支配」の保護を目的とし、1949年に設立された地域的国際機構。本部はストラスブール(フランス)。ヨーロッパ評議会や欧州/ヨーロッパ審議会と訳されることもある。経済統合を主目的とする欧州連合(EU)と混同されやすいが、全く別の機構である。なお、ヨーロッパ域外ではあるものの、日本も1996年から「オブザーバー国」として欧州評議会に参加しており、在ストラスブール日本国総領事館が実質的な代表部として機能し、人権に関する先進的な取り組みを注視するなどしている。
10カ国からはじまった欧州評議会の当初の役割は、ナチスによるユダヤ人虐殺をはじめとする、第二次世界大戦への苦い反省を踏まえての、フランスとドイツの和解に象徴される国家間協力の促進と、人権保障システムの構築であった。冷戦終結にも一役買い、その後旧ソビエト連邦諸国を次々と加盟国に迎え入れる中で、欧州評議会は「人権・民主主義・法の支配」についての基準を確立し、それをヨーロッパ全体に、ひいては全世界に広めることを役割と自負するようになる。死刑廃止の推進は、そうした活動の代表例といえ、その結果、1997年以降は全加盟国で死刑が執行されていない。
2022年8月時点で、加盟国は46カ国であり、ヨーロッパにおける未加盟国は、死刑存置国であるベラルーシと、2022年2月のウクライナ侵攻により同年3月に除名されたロシアの2カ国のみである【図1】。加盟国のほか、オブザーバー国が5カ国ある(教皇庁、アメリカ、カナダ、日本、メキシコ)。
【図1】
欧州評議会で1950年に採択され、1953年に発効された欧州人権条約(人権と基本的自由の保護のための条約。European Convention on Human Rights)は、世界人権宣言(1948年採択)で定められた権利に拘束力を与えた最初の文書である。この条約に基づき、1959年に設立された欧州人権裁判所(European Court of Human Rights)は、国家による人権の侵害(欧州人権条約違反)の有無を判断し、加盟各国にはその終局判決の履行義務が課されている。国家のみならず個人も訴えを提起できることから、欧州市民の最後の人権の砦として機能するこの裁判所を擁していることが、欧州評議会の特色の一つである。
欧州評議会は2022年8月時点で224の条約を有しており、代表的な条約としては、イスタンブール条約(女性に対する暴力の禁止)、ランサローテ条約(子供の性的搾取・性的虐待からの保護)、サイバー犯罪条約、データ保護条約、欧州拷問等禁止条約、テロリズムの防止に関する条約等が挙げられる。加盟国以外の国が参加できる条約も多く、日本は、2022年8月時点で5本の条約(受刑者移送条約、税務行政執行共助条約及び同改正議定書、サイバー犯罪条約及び同第2追加議定書)に署名ないし加盟しており、最近は、人権保護の観点からの人工知能(AI)の規制に関する条約の策定に向けた議論にも参加している。
欧州評議会の機関には、各国の政府代表(外務大臣/大使)が集う閣僚委員会や、各国の国会議員が集う議員会議があり【図2】、この2つの機関によって決定された方針に基づき、多くの委員会が、各人権分野での条約・ガイドライン策定やモニタリング活動等を行っている。最も著名な委員会の1つが、各国の憲法や法律改正についての意見諮問機関であるベニス委員会(法による民主主義のための欧州委員会)である。
各委員会の報告書が欧州人権裁判所における審理の参考とされることもある。また、欧州人権裁判所が条約違反と判断した判決に関しては、閣僚委員会が各国による執行状況を監督し、個人の救済だけでなく、各国の法制度や実務の改革をも促している。このように、欧州評議会全体が、欧州人権条約と裁判所を中心とした人権保障システムとして、有機的かつ一体的に機能している。
【図2】
欧州評議会は、西欧諸国のみならずロシアやトルコも含めた欧州全域における対話の場を提供し、「人権・民主主義・法の支配」の底上げを図ってきたが、その有り様や影響力は、人口約1億4000万人を抱えるロシアの除名によって、否応なく変化しようとしている(ロシアは2022年9月には欧州人権条約からも脱退予定)。各国の制度の違いや数多くの地域紛争を抱えながらも、建設的な相互批判により共に高めあう精神を醸成してきたこの歴史ある機構が、「人権・民主主義・法の支配」の守護者としての存在意義を発揮し続け、真の意味での「欧州共通の家」の構築に中心的役割を果たせるかが問われている。