ナンキンムシ(南京虫)の名で知られる、昆虫綱半翅(はんし)目異翅亜目トコジラミ科の昆虫の総称で、学名はCimex lectularius。カメムシの仲間で、外敵に対してくさい液体を噴出する。成虫は5~8mmほどで、雄・雌・幼虫・成虫ともにゴキブリの幼虫に似ており、動物の血液を栄養源にする。卵は1~2mmほどの大きさで、約1週間で孵化したのち、1~3カ月の間に5回の脱皮を繰り返して成虫となり、約1年生きる。雌は成虫になると、毎日2~5個ずつ卵を産み、年間で3回以上の発生を繰り返す。
夜行性で、昼間はベッドや布団、電気製品の中や周囲、カーペットの下、壁や床板のわずかな隙間などに生息。住みかの近くには、血糞とよばれる黒い小さなふんが見られ、これが多い場所には卵や幼虫も存在している可能性が高い。行動範囲は狭いものの、活動は活発で、ヒトの手足や首などの露出している部分に口吻(こうふん)を刺し、血液を吸う。その際、口吻を刺しなおす習性があるため、多くの場合、皮膚には二つの刺し跡が残される。おおむね、吸血昆虫は、血液を吸う際、粘度を下げて吸いやすくするための分泌物を相手の体内に注入することから、これに対して免疫機構が反応。2度目以降はアレルギーを引き起こし、赤い斑点となって激しいかゆみをもたらす。
トコジラミはもともと日本には存在しない種であったが、江戸時代末期、外国との貿易や交流を期に国内に持ち込まれ、繁殖することとなった。その後、衛生観念の発達や、殺虫剤使用の浸透によって、長らく姿を消すにいたったものの、昨今、アメリカなどで大発生し、その余波が日本国内にも及びつつある。宿泊施設や老人施設、共同住宅にて被害の報告件数が増えており、中には殺虫剤に対する耐性をもつものも登場しているという。
(2009.7)