突発的に発症して手足を壊死(えし)させ、急激な多臓器不全に進行する劇症型感染症の原因菌の俗称。もっとも代表的なのは、劇症型溶血性レンサ球菌感染症を引き起こすA群溶血性レンサ球菌(溶連菌)で、ほかにもビブリオ・バルニフィカス、エロモナス・ハイドロフィラといった細菌が確認されている。1987年にアメリカで最初に報告され、のちにイギリスの新聞が人食いバクテリアと名づけて報道し、知名度が高まった。A型溶血性レンサ球菌は、ありふれた常在細菌の一つで、通常はヒトに感染して咽頭炎などを引き起こす。ただしほかに外傷や感染症などがある場合、または軽度の咽頭炎に続発して、まれに劇症化する。初期症状は発熱、悪寒、手足や筋肉の痛み、血圧低下などで、数十時間以内には軟部組織の壊死、循環不全、呼吸不全といった多臓器不全をきたし、致死率約30%の敗血症性ショックへと至る。劇症化の原因は不明。日本では、99年に5類感染症全数把握疾患に定められた。年間20例以上の報告数があるが、近年になって急増しており、2011年は前年比1.6倍の198人が発症、うち73人の患者が死亡した。有効なワクチンはなく、予防対策として傷口の消毒、咽頭炎の早期治療が推奨されている。
(2012.10)
人食いバクテリア
flesh-eating bacteria
イミダス編
2024/07/19