2024年のノーベル賞6部門が、同年10月に発表され、同年12月10日にメダルなどが授与された。
医学生理学賞は、米マサチューセッツ大学のビクター・アンブロス教授と米ハーバード大学のゲイリー・ラブカン教授に贈られた。授賞理由は、「マイクロRNAと転写後の遺伝子制御におけるその役割の発見」。1993年に、細胞内部で生命に必要なたんぱく質が作られる際に遺伝子の働きを制御・調整する遺伝物質「マイクロRNA」を発見した。その後の研究で、人体では千種類を超えるマイクロRNAが働いていることや、これが正常に機能しないことが、がんや骨格障害などを引き起こすことが分かってきた。マイクロRNAの働きを解明することで治療などにつながることが期待されている。
物理学賞は、米プリンストン大学のジョン・ホップフィールド名誉教授とカナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授に贈られた。授賞理由は「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的な発見と発明」。ホップフィールド教授は1980年代に物理学と生物学の理論を融合させ、人間の脳の仕組みをコンピューターで再現できることを明らかにした。ヒントン教授はこの技術をもとに、大量のデータから人工知能(AI)が自ら学習する「深層学習(ディープラーニング)」の技術へと発展させた。こうした技術は現在、米オープンAI社の「チャットGPT」など、生成AIにも活用されている。ヒントン教授は、受賞を受けての会見で、AIが人類にとって脅威になり得ると警鐘を鳴らした。
化学賞は米ワシントン大学のデイビッド・ベイカー教授と英グーグル・ディープマインド社のデミス・ハサビス最高経営責任者、同社のジョン・ジャンパー上席研究員に贈られた。授賞理由は「コンピューターによるたんぱく質設計と構造予測」。ハサビスとジャンパーは、たんぱく質の構造を予測する人工知能(AI)プログラム「アルファフォールド」を開発し、ベイカー教授は自然界に存在しないたんぱく質を設計する手法を開発した。
文学賞は韓国の小説家、ハン・ガン(韓江)に贈られた。韓国人のノーベル賞受賞は2000年の金大中大統領の平和賞受賞以来2人目で、アジア人女性の文学賞受賞は初。授賞理由は「歴史的トラウマに立ち向かい、人間の命の脆さを露呈させる強烈な詩的散文に対して」。1970年、韓国・光州市生まれ。93年に詩で、94年に短編小説『赤い碇(いかり)』でデビュー。2016年には、肉食を拒否する女性を通じて韓国の社会や歴史に迫った『菜食主義者』でイギリスのブッカー賞をアジアの作家として初めて受賞した。同作をはじめ、民主化運動が弾圧された1980年の光州事件を題材にした『少年が来る』や、済州島で数万人が虐殺された1948年の四・三事件を取り上げた『別れを告げない』など、日本でも多くの作品が翻訳されている。
平和賞は、広島、長崎に投下された原爆の被害者の全国組織である日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)に贈られた。授賞理由は「核兵器のない世界を実現するための努力と、目撃証言を通じて核兵器が二度と使用されてはならないことを実証したことに対して」。核兵器使用を押しとどめる「核のタブー」をつくる上で、核兵器がもたらす痛みと苦しみを世界に訴え続けた被爆者の努力が大きく貢献したとした。ノーベル賞委員会のプレスリリースは、「被爆者は、我々が、言語に絶することを描写し、想像もつかないことに想像を巡らせ、核兵器が引き起こした、計り知れない痛みと苦難に何とか思いを馳せることに寄与している」と記している。
経済学賞は、米マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授とサイモン・ジョンソン教授、米シカゴ大学のジェイムズ・ロビンソン教授に贈られた。授賞理由は「制度がどのように形成され、繁栄に影響を与えるかに関する研究に対して」。経済成長と社会制度の因果関係を研究し、民主主義や法治主義、機会の平等などがその国の経済的繁栄を左右する重要な要素であることを明らかにした。アセモグル教授とロビンソン教授の研究は、共著『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起原』(早川書房)にまとめられている。
ノーベル賞平和賞の授賞式はノルウェーのオスロで、それ以外の賞の授賞式はスウェーデンのストックホルムで、それぞれ12月10日に行われた。日本被団協は、戦時中に徴用されて日本で被爆した在韓被爆者も参加する代表団を派遣。授賞式では代表委員の田中煕巳さんが演説し、「核兵器も戦争もない世界の人間社会を求めて共に頑張りましょう」という言葉で結んだ。