しかし、実はこのカラフルな花火は、花火大会が始まった江戸時代には存在しませんでした。当時の花火は、現在の線香花火のような暗いオレンジ色だけのシンプルで慎ましいもの。明治時代に入り、今まで国内で入手することができなかった金属を海外から輸入して初めて現在のような色とりどりの花火が誕生したのです。それでは、ここから花火の「色」と「形」の科学を探ってみましょう。
(1)花火の「色」はどのように作るのか?
金属に熱エネルギーを与えると、その金属の種類によって出す「光の色」が変化します。これを金属の炎色反応といいます。例えば、赤色はカルシウムやストロンチウム化合物、黄色はナトリウム化合物、緑色はバリウム化合物、青色は銅化合物、とそれぞれ異なる金属が異なる色を発します。
この炎色反応という言葉をどこかで聞いたことがありませんか? 中学生のころに白金の細い線に試料をつけ、バーナーの中で燃やして色付きの炎の様子を観察する理科の実験……まさに、この中学校の教科書に登場する科学が、彩り豊かな花火に結びついているのです。花火師は金属の炎色反応の性質を駆使し、化学の知識を豊富に持った科学者であったとは驚きですね。
(2)花火の「形」はどのように作るのか?
色だけでなく、花火の芸術性を感じさせてくれるのが、その花火の形です。同心円状のもの、しだれ桜のようなおなじみの形だけにとどまらず、最近はなんと、ハート型や星形のものまで登場しています。あれは、物理の法則を利用しているのです。
それは「重さは飛び散る距離に反比例する(運動量保存の法則)」というもの。もう少し詳しく打ち上げ花火の中身がどうなっているか、簡単にご説明しましょう。
打ち上げ花火の玉の中には、仕掛けに応じて金属小玉がいくつも入っています。その小玉は、前述したように金属による炎色反応で色が変わります。中心部は「割薬」という火薬が入っていて、これが花火を破裂させるきっかけを作ります。そして割薬が破裂したショックがそれぞれの小玉に平等に分配されるのです。
ここで先ほどの「重さは飛び散る距離に反比例する」の法則が生きてきます。同じショックを受けた小玉ですが、軽いモノほど遠くまで飛び散ります。この物理の法則を利用して、花火師たちは個性あふれる花火を形作っているのです。
ただ、ここで少し難しいのは、地球には重力があるということ。だから、下に飛ぶものほど遠くまで飛び散ってしまいます。同心円状の花火は一見作るのは単純に見えます。でも、実は重力という「誤差」まで計算に入れて作らなければ、きれいな円形にはならないのです。このように花火の「色」に関しては「化学」、「形」に関しては「物理」が駆使されています。
花火を見るだけでもロマンチックな気分になって楽しいものです。でも、次に見かける機会があれば、「花火には科学がいっぱい詰まっている」ということ、そして花火師たちの科学者としての成果に思いをはせるのもよいかもしれません。
運動量保存の法則
外部から力が加わらないかぎり、運動量は常に不変であるという物理法則。(質量)×(速さ)=(運動量)と表される。フランスの哲学者・数学者であるデカルト(1596~1650年)によって発見された。