生殖可能な男女のセックスにおいては、常に妊娠の可能性がある。妊娠を希望していない場合、そのリスクにさらされるのは女性だが、女性だけでは妊娠できない以上、男性にとっても、意図しない妊娠を防ぐ避妊の知識は不可欠だ。正しい知識があれば、自分とパートナーのSRHR(Sexual Reproductive Health and Rights。セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ。性と生殖に関する健康と権利)を尊重しあい、パートナーと安全・安心なセックスを楽しむことにもつながるだろう。だが、実際には間違った情報とは知らずに信じていたり、知識がアップデートされていなかったりする人も多いかもしれない。たとえば、コンドームは最も効果が高い避妊法とはいえないこと、100%安全な避妊方法は存在しないことをあなたは知っているだろうか? 大人こそ学び直したい「避妊の基礎知識」について、学生時代から性教育の啓発活動や情報発信、高校などへの出張授業に取り組み、「えんみちゃん」のニックネームで親しまれる産婦人科医の遠見才希子先生にうかがった。
避妊にまつわる「迷信」「都市伝説」
中学校の教科書に避妊についての記載はありませんが、高校では保健体育の教科書に避妊法としてコンドームと低用量ピルについて書かれています。つまり、公教育の中で避妊を学ぶことができるのは高校生ですが、子どもたちは正しい知識に触れる前に、ネットや口コミなどで誤った情報を得てしまいます。そして、避妊について知ったり考えたりする機会が少ないのは大人も同じかもしれません。
特に根強い誤解は、腟外射精にまつわるものです。「ジャパン・セックスサーベイ2020」によると日本では19.7%が「腟外射精で避妊している」とされ、これは「コンドーム」(58.4%)に次ぐ順位です。しかし、そもそも腟外射精は避妊方法とはいえません。勃起してから射精するまでに出てくる「ガマン汁」と呼ばれる液体には精子は含まれていませんが、ガマン汁が出る状態はいつ精子が漏れ出てもおかしくない状態なのです。タイミングよく腟からペニスを抜いて射精したと思っても、避妊できているとは限りません。
また、妊娠しにくいと言い切れる「安全日」は、実際には存在しないと考えたほうがいいでしょう。卵子の寿命は1日ですが、精子の寿命は3~5日程度です。したがって、妊娠する可能性がある期間は排卵日の約5日前から排卵翌日までといわれています。排卵日は、月経周期が28日の場合、月経開始から14日目頃ですが、排卵はストレスなどの影響を受けて変動しやすいため、排卵日を正確に予測することは難しいです。早く排卵が起これば月経中のセックスでも妊娠する可能性があります。そもそも月経と思っていた出血が月経ではなく不正出血だったということもあります。これらの理由から、妊娠を望まない場合は常に避妊をする必要性が考えられます。
いわゆる都市伝説のような避妊方法もネット等を通して流通しています。「腟をコーラで洗う」「中学生なら妊娠しない」……すべてウソです。
意図しない妊娠を防ぐためにも、適切な避妊とはどういうものか、もっと情報が行き渡り、避妊方法の選択肢が増えることが必要です。以前、私の性教育の授業をとても真剣に聞いてくれた高校生の女の子から、「1年くらい付き合っている25歳の彼氏が、中出しした後にすぐビデでよく洗えば妊娠しないって言うんです。そのやり方で一度も妊娠したことがないんで、それでいいんですよね」と言われたことがあります。性教育でどんなに「安全日はない」「外出しでも妊娠する」などと伝えても、日々接する年上の彼氏が「洗えば大丈夫」と言って、たまたま妊娠していなければ、それを信じてしまう。その子にとってはその彼氏が一番身近な信頼する大人なので、たった1回の性教育より影響力があることを痛感しました。
排卵期は妊娠する可能性がありますが、この時期にセックスして自然妊娠する可能性は、実は20%ぐらいで、約5人に1人しか妊娠しません。でも、たった1回のセックスで妊娠することもあるし、排卵期のセックスが重なれば、その確率は上がっていきます。
コンドーム主流の日本の避妊、何が問題?
避妊には、男性主体と女性主体の方法があります。まず男性主体の避妊についてみてみましょう。