なかなか普及しない「ピル(経口避妊薬)」
日本で1999年に発売が開始された低用量ピルは、飲み始めてから1~3カ月は、不正性器出血や頭痛、吐き気など「マイナートラブル」と呼ばれる症状が出ることがありますが、これらは内服を続けることで症状がおさまることが多いです。マイナートラブルとして生じうるむくみや食欲増進の影響によって「ピルを飲むと太る」と感じる人がいるようですが、ピル自体が肥満を引き起こすわけではありません。
日本で低用量ピルが普及しないのは、コンビニやドラッグストアでも簡単に安く入手できるコンドームと異なり、婦人科(産婦人科)などの医師による診察・処方が必要、避妊目的のみでは保険が効かない(月経困難症などの治療目的であれば保険適用となる)、薬代が高い(保険適用がなければ、1カ月3000円前後)など様々なハードルが存在することも影響していると思われます。低用量ピルが月経困難症などの治療用(LEP)として保険適用になったのは2008年ですが、当初は適用前に比べ、薬価が3倍ほどに上げられたことで、結局、保険適用でも自己負担額は避妊目的の低用量ピル(OC)と変わらないということになりました(現在は後発薬が発売され、保険適用で1カ月800円程度の低用量ピルがあります)。薬代以外にも診察料などの支払いも必要になるため、「低用量ピルを使いたいけれど、値段が高いから」とためらう女性も少なくないようです。
日本では治療用のピルはLEP(Low dose Estrogen Progestin。低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤)、避妊目的のピルはOC(Oral Contraceptives。経口避妊薬)と分類されており、LEPの添付文書には「避妊目的で使用しないこと」と書かれているのですが、基本的にLEPにもOC同様の避妊効果があります。
しかし、それについて医師からも説明がなく、LEPを内服している女性が、避妊目的でさらにOCを内服していたというケースもあるそうです。約7割の女性は月経困難症を抱えているといわれており、避妊も治療も両方必要という女性は少なくありません。また、避妊効果が基本的にあるにもかかわらず、このふたつを分け、「避妊目的で使用しないこと」と明記することは混乱を招く恐れがあると思います。こうした区別は日本独自のもので、海外ではすべてOCであり、避妊効果がメインで、それ以外に月経症状の緩和などの副効用があるという考え方です。
避妊効果が高い子宮内避妊具(IUD/IUS)
子宮内避妊具(IUD/IUS)は、一度子宮内に装着すれば約5年にわたり効果が持続します。月経困難症や過多月経の治療目的の場合は保険適用で費用は挿入時1万円程度ですが、避妊目的で使用する場合は自由診療で、3〜7万円程度がかかります。
IUSの添付文書には未経産婦に対しては「第一選択の避妊法としないこと」と記載されていますが、未経産婦には挿入できないというわけではありません。IUSやIUDを挿入する時に痛みを感じるのは、出産経験の有無だけでなく個人差が関係します。IUSは日本には1種類しかありませんが、海外には未経産婦にも挿入しやすい小さいサイズもあります。
緊急時のバックアップである「緊急避妊薬」へのアクセス改善を
どの方法を使っても、「100%確実」と言い切れる避妊法はありません。コンドームの破損や脱落、低用量ピルの飲み忘れなど避妊の失敗は誰にでも起こり得ます。また、同意のないセックス、つまり性暴力被害にあったときにも緊急避妊は重要な役割を果たします。緊急避妊はもしもの時のバックアップとして不可欠なものです。
緊急避妊には、避妊をしなかったセックスや避妊が不十分だったセックスの後に、72時間(3日)以内に服用して排卵を遅らせる作用の緊急避妊薬(通称アフターピル)と、120時間以内に子宮内に挿入する子宮内避妊具(銅付加IUD)があります。セックスからなるべく早く、タイムリミットがくる前に緊急避妊を行うことで、ほとんどの妊娠を避けることができます。100人の女性が月経2~3週目に避妊しないセックスをしたとして、タイムリミットのうちに緊急避妊薬を使用した場合、妊娠する女性は1人。銅付加IUDを使用した場合は2人といわれています。
WHOは「意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性及び少女には、緊急避妊にアクセスする権利があり、緊急避妊の複数の手段は国内のあらゆる家族計画プログラムに常に含まれねばならない」と勧告し、コロナ禍においても改めて「OTC化を含め、緊急避妊へのアクセスを確実にするように」と提言しています。このように、緊急避妊薬は最優先でアクセスを確保すべきものなのです(OTC〈Over The Counter〉については「一般医薬品」参照)。