日本で緊急避妊薬を入手するには主に婦人科(産婦人科)の医師の処方が必要で、保険適用はなく約6000円~2万円と高額です。特に地方や土日祝日は対応可能な医療機関が少なく、入手に当たっては高いハードルがあります。レイプの被害者は警察やワンストップ支援センターに届出や連絡をすることで公費負担や助成を受けられることがありますが、被害届が受理されなければ支給対象にならない、また地域ごとに対応が異なるといったことも問題です。その他、被害を早期に認識することができなかったり、医療機関や警察などに相談できなかったりするケースも多くあります。
緊急避妊薬の妊娠阻止率(排卵予測日などを考慮して算出された数値)はセックスから24時間以内の服用であれば95%、25〜48時間以内で85%、49〜72時間以内で58%と、時間の経過と共に低下していくため、必要な女性が迅速に安心して手にいれられるシステムが必要です。
日本では2011年に緊急避妊薬「ノルレボ錠」(ノルレボは登録商標。一般名:レボノルゲストレル)が発売されました。それ以前は「ヤッペ法」という中用量ピルを代用する方法が長年とられていました。この方法は、妊娠阻止率約57%と効果も低いものでした。また、嘔吐などの副作用が出ることがあり、「緊急避妊薬は副作用が強い」というイメージはこの影響があるかもしれません。現在の緊急避妊薬(2019年に後発薬発売)は、安全性が高く、重い副作用はありません。万が一、妊娠中に誤って飲んでも胎児に害はなく、たとえ複数回服用しても健康被害は報告されていません。なお、現在、海外ではセックスから120時間以内の服用で妊娠阻止率約95%の「ウリプリスタル酢酸エステル」という新たな緊急避妊薬が流通していますが、日本では未認可です。
海外では約90カ国で緊急避妊薬を薬局で処方箋なしに薬剤師から安く購入することができます。そのうちアメリカやイギリスを含む19カ国ではOTCといって、薬剤師も介することなく自由に商品棚から直接購入できる薬となっていて、中には学校の保健室などで無料配布されている国もあります。安全な薬で、アクセスのしやすさが効果に関わるからこそ、緊急避妊薬を必要とする全ての女性がアクセスできるようハードルを下げているのです。
日本はというと、2019年に緊急避妊薬のオンライン診療が要件付きで認められ、2020年4月からは新型コロナウイルスの感染拡大に伴う特例措置として、要件を満たしていなくても医師の判断で比較的自由度の高いオンライン診療が解禁されました。現在、緊急避妊薬のオンライン診療に関する医師・薬剤師向けの研修が行われており、今後、婦人科(産婦人科)以外の診療科の医師による処方やオンライン診療が増えることが期待されます。しかし現状は、緊急避妊薬を取り扱う医療機関が十分になく、オンライン診療はキャッシュレス決済や宅配が多く、診療にたどり着けなかったり、タイムリミットの間に入手できなかったりすることがあるため、OTC化の選択肢は必要です。現在、市民活動団体が中心となって緊急避妊薬へのアクセス改善のために「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」(#緊急避妊薬を薬局で)が展開され、社会的関心が高まっています。
緊急避妊へのアクセスが良くなっても性は乱れない
緊急避妊薬が簡単に手に入るようになると「性の乱れにつながる」という声が出てきます。しかしWHOは「緊急避妊へのアクセスが良くなることによって、性的なリスク行動は増加しない」と明らかにしており、緊急避妊薬へのアクセス改善が「性の乱れ」につながるという意見に根拠はありません。
また「悪用される」懸念から手に入りやすくすることを反対する人もいますが、そもそも入手のハードルが高いことから、フリマアプリで個人輸入品が転売されて逮捕者が出るなどの社会問題になっています。年齢性別を問わず包括的性教育を充実させていくことや日頃の避妊法へのセクセスを改善していくことももちろん重要ですが、今、緊急避妊薬を必要としている全ての女性がアクセスできる環境に変えていくことが求められています。
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