多くの方が経験するのは、採卵時に使用する排卵誘発剤の副作用(お腹の張り、頭痛、眠気、吐き気、むくみなど)ではないかと思います。排卵誘発剤の使い方は医療機関によっても方針が異なり、タイミング法の段階から積極的に使うところもあれば、できるだけ自然に任せるところもあります。担当医にご自分の希望を伝えつつ、ベストな方法を判断していくのがよいと思います。また、以前は排卵誘発剤を使ったあとは10日間くらいお腹がパンパンに張るということもありましたが、新たに使えるようになった薬剤もあり、副作用は軽減されていると思います。排卵誘発剤も、内服薬と、専用のキットを使った自己注射が主流になっており、ご自分で手軽に打つことができます。注射針も以前より細くて短いものに変わってきていますから、痛みはほぼありません。
Q4.不妊治療を受けるときの医療機関を選ぶポイントを知りたいです。
患者さんにとって一番気になるのは妊娠できるかどうかということですので、診療実績を見て決めるということは、ポイントとなるかもしれません。大規模な医療機関は多くのデータを持っているというメリットがありますが、そうしたところでは、行く度に診察する医師が替わったりするので、毎回同じことを説明しないといけないという点でストレスを感じる人もいるでしょう。相談しやすさということでは、いつ行っても同じ医師が診てくれる比較的小規模なクリニックのほうが、話が通じてリラックスできるのではないかと思います。
また、不妊治療は医療機関によって得意とするやり方もそれぞれです。いろいろ検討して通い始めた医療機関であっても、治療を受けてみてうまくいかなかったり、治療方針が自分に合わなかったりするということも起こり得ます。そういうときは、結果が出ないことをあまり思いつめず、気分転換も含めて違う医療機関に相談に行ってみる、転院するというのも、ひとつの方法です。
Q5.「妊活」にいいと言われるサプリメントや漢方薬などは積極的に利用した方がいいのでしょうか。
いわゆる妊活サプリの成分の中には、子宮内の環境を改善すると言われる乳酸菌や、二分脊椎(胎児のときに脊髄が背骨で覆われない状態になったことで、脊髄等に異常が起こったりすること)の予防だけでなく、最近は妊娠率上昇との関連も報告されている葉酸など、不妊症に効果があるという報告が出ているものもあります。ただし、どんなに良い成分でも過剰摂取にならないよう、サプリメントの飲みすぎには気をつけなくてはなりません。また、サプリメントは食品扱いなので、薬品のような厳密な表示基準がないという点も注意が必要です。特に海外の製品をインターネットで購入する場合、どのような成分が入っているかわからない怖さがあります。
サプリメントの飲みすぎでお腹いっぱいになってしまい、通常の食事が摂れないということも避けてほしいですね。妊娠に必要な栄養を摂るには、やはり1日3回の食事が基本です。といっても、あまり神経質にならず、だいたいのカロリーやタンパク質、脂質の必要量を頭に入れておいて、「朝と昼は野菜が少なめだったから、夕食でたくさん食べよう」というぐらいでよいと思います。
鍼灸や漢方薬などを用いる東洋医学には、西洋医学とは異なる経験値がありますから一概には言えませんが、妊娠そのものを引き起こすというよりは、妊娠できるよう体のコンディションを整えるためのものという位置付けになると思います。医師としては、西洋医学の治療をベースに補完的に活用してほしいというスタンスです。
妊活に良いと言われているものの中には、効果があるかどうかがわからないものも多いです。いろいろ試したくなる気持ちはわかりますが、高いお金をそこに費やす前に、基本的な生活習慣の改善など、できることもたくさんあると思います。
Q6.不妊治療を受けているときに感じるつらい気持ちを誰にも打ち明けられません。メンタル面でのサポートを受けられるところはあるのでしょうか。
結果が出ない治療を繰り返すことは、経済的負担もですが、何より精神的な負担が非常に大きいです。不妊治療の悩みは、夫婦間でも共有できるとは限りませんし、親や友人にも打ち明けられないということも多く、ひとりで抱えがちになってしまうかもしれません。何か気になることがあれば、ぜひ主治医に相談してほしいと思います。診察の時間が限られているなどで言いだせない場合は、医療機関の相談窓口や、一定の研修を受けた看護師やスタッフが対応できますので、遠慮せず声をかけてください。また、各自治体にも不妊専門相談窓口が設けられているところがありますので、そういうところで話を聴いてもらうのもよいと思います。
Q7.思うような結果が出なかったとき、不妊治療をいつまで続けるか、どのように判断すればよいのでしょうか。
繰り返しになりますが、不妊治療の難しいところは、治療したからといって100%結果が出るわけではないということです。では、どこで治療をストップするか。ひとつの目安としては、保険診療でカバーできる範囲内で結果が出るかどうか、というところにあると思います。
たとえば不妊治療の保険適用では、体外受精の場合、治療開始時の女性の年齢が40歳未満であれば1子ごとに6回、40~43歳であれば1子ごとに3回と、上限が決まっています。実際、30代では6回以内に結果が出ることがほとんどですので、保険適用から外れるときが、自費診療に移行するか、それとも治療をやめるかの区切りになると思います。ただ、自費診療にしたからといって妊娠できる確率が跳ね上がるというわけではありませんので、そのあたりも含めて、医師と相談していただければと思います。
卵巣機能にもよりますが、43歳になるまでは治療を続ける意味はあると考えています。健康状態や経済力などを考慮して双子でも出産・育児ができそうだという判断になれば、1回の胚移植で胚を2つ移植する選択肢も検討する余地があるでしょう。一方、40~43歳になると、3回の胚移植ではよい受精卵を得られず、結果の出ない方が多数いることも事実です。もし、3回で結果が出なかったときは、治療を続けても可能性が高くなるわけではないということも考慮しつつ、方針を立てていただければと思います。