月経周期が安定している場合は、市販の排卵日予測検査薬(排卵チェッカー)を利用した自己タイミング法という選択肢もある。月経不順の場合は、医療機関での超音波検査(腟から器具を入れ、卵巣内の卵胞の成長具合を調べる)によって、排卵のタイミングから妊娠しやすい日を予測・指導できる。タイミング法1回あたりの妊娠率は約3~5%だが、半年続けることで約50%、通院して6カ月以降の妊娠率はほぼ横ばいとなる。そのため、次のステップに進む前に複数回(6回、半年程度)行うのが一般的。
人工授精(AIH:Artificial Insemination of Husband)
タイミング法と同じく、最も妊娠しやすい日を予測し、子宮の奥に届くよう、腟内に柔らかい管を入れて精子を注入し、妊娠を試みる方法。自分でできる類似の方法として、市販のキットを使って精子を腟内に注入するシリンジ法がある。
医療機関では、人工授精を行う当日に採取した精液を洗浄し、不純物や運動性の悪い精子などを除去して、良好な状態の精子群が濃縮された精子液を得る。女性は内診台で精子の注入を受け、その後は通常の生活をしてかまわない。副作用として、女性に出血、腹痛、発熱等が起こることがあるため、予防的に抗生剤を処方している医療機関もある。
人工授精は性機能障害や、精子の状態に軽度な問題があるとき、子宮頸管の粘液が少ない等で精液が通過できないときなどに有効と言われる(それ以外のケースでは選択されないこともある)。人工授精1回あたりの妊娠率は約5~10%で、妊娠した事例の約9割は4回以内に妊娠している。
高度生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)
体外受精、顕微授精、またそれに伴う生殖技術(手術用顕微鏡を使って精巣内から精子を取り出す精子内精子採取術〈略称TESE〉等)のこと。これに対し、タイミング法と人工授精(それに伴う検査を含む)は「一般不妊治療」と呼ばれる。高度生殖補助医療には、2022年4月から健康保険が適用されるようになった(対象は事実婚を含む法律上の夫婦。年齢や回数に制限あり)。
体外受精(IVF:In Vitro Fertilization)
針を用いて女性の卵巣から採取(採卵)した卵子を、男性から採取した精子で受精させ、受精卵を胚になるまで育成してから子宮に移植し、妊娠を促す方法。
通常の月経周期で排卵される卵子は1〜2個であるため、採卵時は排卵誘発剤を使用(排卵誘発法または卵巣刺激法)し、複数の卵子を採取することが多い。ただし、女性の年齢や卵巣の状態、採取したい卵子の数等によって、排卵誘発法の刺激の度合いは慎重に検討される。自宅で打つ自己注射や内服薬(超低刺激法、低刺激法)が主流だが、高刺激の方法(ロング法、ショート法、アンタゴニスト法)では、多胎率の増加、OHSS(卵巣過剰刺激症候群。卵巣の腫れや腹水、血栓等を引き起こす)のリスクに注意する必要がある。
採卵した卵子は、洗浄・濃縮した精子と同じシャーレに入れる媒精法(ふりかけ法)で受精させる。翌日に受精を確認できた場合は、受精卵を体内の環境に近い培養器の中で、胚になるまで2~6日間育てる。胚に異常がないと確認されれば、細いカテーテルで子宮に移植する(これを新鮮胚移植という)。
良好な胚を、いったん凍結保存(胚凍結)しておくこともできる。特に複数の胚が得られた場合は、移植する以外の胚を凍結保存することが一般的。液体窒素内で凍結しておいた胚を融解して子宮に移植することを凍結融解胚移植という。凍結融解胚移植する際は、排卵日を特定して融解・移植を行う方法(排卵周期移植)と、ホルモン剤を投与して胚が着床するための子宮内膜が整ってから移植を行う方法(ホルモン補充周期移植:HRC)がある。
凍結融解胚移植では子宮の環境を整えた状態で移植できるため、新鮮胚移植より10ポイント程度妊娠率が高まるとされる。保険診療での凍結胚の保存期間は1年間、その後1年ごとに更新が可能だが、保険診療での更新は妊娠中でないことが要件となる。保存期間中に閉経するなど女性の生殖年齢(45~50歳。医療機関によって設定年齢は異なるが、判断基準としては月経があることよりも、無事に出産までたどり着けるかどうかが重視される)を超えた場合、あるいは精子を提供したパートナーの死亡や離婚などで提供者の同意が得られなくなった場合は破棄される。
体外受精による出生率は女性の年齢が上がるにつれ低下する。33歳頃までは平均20%ぐらいあるが、34歳では20%を切り、38歳で15%弱、40歳で10%弱、その後さらに急激に低下し、47歳では0.5%となる。
顕微授精(ICSI:intracytoplasmic sperm injection)
体外受精とほとんどの手順は共通しているが、受精を促す際、ひとつの精子を選んでガラス針に入れ、顕微鏡で見ながら卵子に注入する。媒精法(ふりかけ法)で結果が得られなかったときや、精子の運動率や形状等に問題がある場合などに効果が高く、妊娠率が高いとされる。ただし、顕微授精は始まって30年程度の技術であることから、未解明な部分もあり、生まれた子の発育や病気の罹患率についての意見は分かれている。そのため、精子の運動率や形状等が正常の場合は、顕微授精を安易に選択することは勧められていない。
着床前診断
妊娠初期に起こる流産や、胚移植を行っても妊娠しない原因の多くは受精卵の染色体異常にあるため、体外受精で得られた胚の細胞の一部を検査し、子宮に移植する前に、染色体に異常がないかどうかを調べる検査のこと。
着床前診断のうち、染色体の数に異常がないかを調べる着床前胚染色体異数性検査(PGT-A:Preimplantation genetic testing for aneuploidy)は、胚移植を2回以上行って成功しない、または流産・死産を2回以上経験していることを条件に受けることができる。
流産・死産などを経験していなくとも、男女のどちらかに染色体異常がある場合には、着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR:Preimplantation genetic testing for structural rearrangement)を受けることができる。