月経に関係する女性ホルモンの分泌には脂肪やコレステロールが必要です。ダイエットや低栄養が原因で月経が止まっている場合は、まずは1日3回栄養バランスのよい食事を摂り、BMIで言うと18以上を目指してください。また総コレステロール値の基準値(130~220 ㎎/㎗)を下回らないように注意しながらからだを回復させていきましょう。
気をつけてほしいのは、体重が戻ってもすぐに月経が始まるとは限らないということです。長いときには自然に排卵できるようになるまで3年かかる人もいます。メンタルの問題から無理なダイエットに走ってしまうという人は、心療内科などで専門的なサポートを受けながら治療していくことも必要です。
Q3.次の生理まで1カ月以上空いてしまうことがよくあります。どのくらいの周期がふつうですか?
一般的な月経周期は28〜35日ですが、これにあてはまらなくても、基本的には一定の周期で月経がきていれば排卵がちゃんと起こっているということです。周期が45日ぐらいという女性もよくいますので、まずは様子を見ましょう。
目安としては、やはり月経周期が3カ月以上というときは、婦人科で診察を受けることをお勧めします。この場合は卵巣の機能が低下していることが考えられます。また、月経によって子宮内膜がちゃんと剥がれて排出されないと、将来的に子宮内膜増殖症や子宮体がんなどの病気につながっていく可能性があります。
基礎体温は排卵の傾向を知るための大切な情報ですから、毎日必ずでなくてもいいので、必要に応じて測ってみて記録しておくと、診察のときに役立ちます。最近はスマートフォンで基礎体温を記録できるアプリもあり、手軽で便利ですが、婦人科医としては紙に記入した基礎体温表があるほうが、患者さんの状態を把握しやすくなります。基礎体温表は薬局などで買えるほか、インターネットからダウンロードすることもできます。基礎体温表からそれまでの月経でちゃんと排卵があったことがわかれば、婦人科では少し様子を見ることにするでしょう。もし基礎体温がずっと低いままで、明らかに排卵していないときは、ホルモン剤を投与して、少なくとも3カ月に1回は月経を起こして内膜が排出されるようにします。
月経が止まったり不順になったりして受診する人については、プロラクチンというホルモンの分泌量を必ず調べます。プロラクチンは、通常は妊娠・授乳期間中に分泌されるホルモンで、乳腺を発達させ、排卵や月経を抑える作用があります。妊娠・出産期ではないのにプロラクチンの分泌量が多い状態を「高プロラクチン血症」といい、この状態のときには月経が止まったり、不順になったりします。対処法としては様子を見ながらホルモン剤を投与して、月経が起きるようにします。「高プロラクチン血症」は脳下垂体腺腫(プロラクチノーマ)が原因となっていることもありますが、これは良性の腫瘍なので、経過観察ですむことが多いです。
また、プロラクチン分泌量が多いとき、しばしば甲状腺機能の低下が隠れていることがあります。脳下垂体からはTSHという甲状腺刺激ホルモンも分泌されています。甲状腺の機能が低下していると、大量のTSHが分泌されます。明確な因果関係は明らかになっていませんが、TSHの分泌量が増えると、プロラクチンの分泌量も増えることがよくあり、これはTSHとプロラクチンが、同じ脳下垂体の、それも極めて近い部分から分泌されているためではないかと思われます。
甲状腺機能の低下は更年期の女性にも多く、たとえば「更年期だから」で片付けられがちな体調の悪さも、実は甲状腺機能低下が原因だったということもあります。甲状腺機能低下は若い女性でもよくある症状ですし、妊娠したい女性にとっても、TSHの値が2.5以下のほうが妊娠中の諸トラブルが少ないということがわかっていますので、月経の不調があったら、甲状腺についても検査しておくといいでしょう。
Q4.前回から1カ月もしないのに、また生理がきてしまいました。早すぎないか不安です。
月経周期が24日以内の場合は「頻発月経」と診断されます。思春期であれば、ホルモンバランスが安定していないためであることが多く、通常は成長とともに安定するでしょう。
思春期を過ぎてからの頻発月経は、無排卵または卵子の数が減っていることが原因の場合があるので、注意が必要です。加齢に伴って卵子が減ったり卵巣の機能が低下してくると、どうにかして排卵させようと、脳が卵胞刺激ホルモン(FSH)を多く分泌するようになります。FSHによって卵巣が過度に刺激されることで、排卵と月経が頻繁に起こるようになってしまうのです。更年期の女性に頻発月経が多発するのはこのためです。
更年期だけではなく、20~30代でも頻発月経は起こります。その年代でFSHの値が高い場合はやはり卵巣の機能が落ちているということを意味します。妊娠を希望するかどうかも含めて人生設計にも影響することなので、一度婦人科で検査を受けてみてください。
頻発月経の場合は出血する日数が多くなるので、貧血も要注意です。健康診断等で、定期的に貧血になっていないかどうか確認しましょう。もし経血量が少ない場合は排卵を伴わない月経(無排卵性月経)の可能性が高いので、以下のQ&Aも参照してください。
Q5.生理が1週間以上続くので、毎月とても憂鬱です。
1回の月経が8日間以上続くと「過長月経」という診断になりますが、実際の診療で重視するのは月経の日数よりも、むしろ経血の状態です。
月経の最後のほうで薄い経血が4~5日続くことで「8日以上の月経」になる場合は、まず問題ないと言っていいでしょう。
月経全体を通して少量の出血がだらだらと続く場合も同様です。たまたま前の月に女性ホルモンのエストロゲン値が上昇せずに排卵がうまくできなかったりすると、低い値のエストロゲンにさらされ続けた子宮内膜が排出されて出血が始まる、ということは珍しくありません。その場合は、そもそも子宮内膜自体が厚くなっていないので経血量も少量です。また、通常は月経の前半にエストロゲン値が上昇することで、子宮内膜と子宮内の血管の修復が始まり、経血が止まるのですが、エストロゲン値が上昇しなければ内膜の修復も始まらないので、量は少なくてもなかなか出血が終わらないという状態になります。これを「無排卵月経」と呼びます。将来的に健康を害したり妊娠しにくくなったりすることはありませんので、そのまま経過観察します。更年期に少量の出血が続くという場合も、無排卵月経です。
閉経
40〜50歳代で卵巣の機能が低下し、排卵・月経が起こらなくなること。
月経周期
生理周期。月経の初日から、次の生理の前日までの日数を指す。
BMI
体重(kg)を、身長(m)の2乗で割った数値。肥満や痩せなど、体形の目安になる。
子宮内膜
子宮の内側の組織。月経による出血が終わるころから、女性ホルモンの作用によって増殖しはじめて受精卵の着床に備える。着床しなければ次の月経時に経血として排出される。
基礎体温
生命維持のために必要な最小限のエネルギーのみを消費している心身ともに安静な状態、つまり睡眠中の体温のこと。目覚めた後、活動を始める前に計測する。
子宮内膜症
子宮内膜組織が子宮内腔以外の場所で増殖する疾患。
卵巣チョコレート嚢胞
卵巣嚢腫の一つで、正式名称は卵巣子宮内膜症性嚢胞。卵巣の内部で子宮内膜症が発生することで、月経のたびに少量の経血が生まれ、チョコレート状になって溜まる。