■非浸潤がん・浸潤がん
乳がんはその広がり具合によって、がんが乳管・小葉の中にとどまっている「非浸潤がん」と、乳管の周囲に広がった「浸潤がん」のふたつに大きく分けられる。「非浸潤がん」は適切な治療を行うことにより転移・再発はほぼなくなるが、「浸潤がん」はリンパ管や血管を通して転移・再発の恐れがあり、手術後に予防として薬物療法を行うことがある。
■サブタイプ
乳がんは、がん細胞の性質により、5つのサブタイプに分類される。指標となるのは、①「ホルモン受容体」の有無、②「HER2」というタンパク質の量、③がん細胞の増殖能力を示す「Ki-67」の値で、手術前後に薬物療法を行う際の判断材料となる。
「ホルモン受容体」は、女性ホルモンの受容体を指し、エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体の2種類がある。このどちらかの受容体を持っている場合は「ホルモン受容体陽性乳がん」と呼ばれ、乳がん全体の70〜80%が該当する。このタイプの乳がんは女性ホルモンを栄養にして増殖するため、体内の女性ホルモンを減らしたり、がん細胞における女性ホルモンの取り込みを阻害したりするホルモン療法が有効となる。ホルモン療法によって、再発や転移のリスクを最大で半分ほどに減らすことができる。一方、ホルモン受容体が存在しない=陰性の場合は、ホルモン療法の効果は期待できない。
「HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor type 2、ヒト表皮成長因子受容体2型)」とは、がん細胞の表面にあるタンパク質のことで、この量が多いほどがん細胞の増殖が盛んになる。HER2が過剰発現していると「HER2陽性乳がん」と判断される。乳がん全体の15~25%が該当する。このタイプの乳がんでなおかつ浸潤がんの場合、HER2タンパクにはたらきかける分子標的治療薬のひとつである「抗HER2治療薬」を用いた治療の効果が高い。抗HER2治療薬は抗がん薬と併用される。かつては、転移・再発の危険性が高いタイプだったが、抗HER2治療薬の登場で、生存率は飛躍的に向上した。
「Ki-67」はがん細胞の増殖の程度を表す指標で、値が高いとがんの悪性度が高く、再発リスクも高いと考えられる。悪性度が低い「Ki-67」の測定方法については一定の基準がないなど、あくまで便宜的な分類である。
ふたつのホルモン受容体とHER2がすべて陰性の「トリプルネガティブ」と呼ばれるタイプの乳がんでは、ホルモン療法も抗HER2治療薬も有効ではなく、化学療法のみが選択肢となる。
手術療法
主な手術法
乳がんの手術には、がんを取り除くだけでなく、切除したがんの性質を調べて術後の治療方針の検討材料とする目的がある。主に、乳房温存手術(乳房部分切除術)と乳房全切除術(全摘)があり、両者の生存率は変わらないが、乳房内での再発率については、乳房温存手術はやや高く、再発時には追加の手術が必要になる。がんの大きさや広がり具合などによって、どちらを選ぶかを決定する。
■乳房温存手術
患者が乳房温存を希望する場合、乳房にあるしこりとそのまわりの組織を切除し、手術後に放射線治療を行うのが基本となる。0〜II期のしこりがまだ小さい時期(3センチ以下)に適用されるが、がんが広範囲に広がっていたり、妊娠中などで放射線治療ができなかったりするときは選択できない。また、遺伝性乳がんにも適用されない。しこりの大きさが3センチ以上であっても、手術前に抗がん剤、抗HER2薬を3〜6カ月投与する薬物療法(術前薬物療法)を行い、しこりを小さくすることで、乳房温存手術を受けられる可能性もある。