■乳房全切除術
大胸筋と小胸筋を残し、乳頭・乳輪・乳房のふくらみもふくめて乳房を切除する。しこりが3センチ超で術前薬物療法を行っても小さくならない、がんが広がっている、術後の放射線治療を受けられないなどの場合に選択される。乳房のふくらみが片方なくなる問題には、パッドで胸のふくらみを補ったり、再建手術で乳房を作ったりする(乳房再建。後述)ことで対処する。
■その他の手術
がんのしこりが乳房の皮膚と十分離れている早期乳がんのみが対象の、「皮膚温存乳房全切除術」(大胸筋、小胸筋の他、乳房の皮膚を残して乳房を切除する)や、乳頭と離れている時に行う「乳頭乳輪温存乳房全切除術」(大胸筋、小胸筋の他、乳房の皮膚、乳頭、乳輪を残して乳房を切除する)がある。これらの術後には、乳房再建でより整った形の乳房にすることができる。乳頭温存乳房全切除術は、乳房温存手術や乳房全切除術と比べて生存率や再発率は十分に確認されておらず、希望する場合は主治医とよく相談すること。
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センチネルリンパ節生検と腋窩リンパ節郭清
基本的に乳がん手術とセットで行われる「センチネルリンパ節生検」では、センチネルリンパ節(がん細胞がリンパ管に浸潤した場合、最初にたどりつくリンパ節のこと。乳がんの場合、腋〈わき〉の下に5~20個ある「腋窩〈えきか〉リンパ節」の一つであることが多い)を特定し、摘出して転移の有無を確認する。センチネルリンパ節に転移がない場合、その先のリンパ節転移もほぼないと見なされる。
センチネルリンパ節生検でがんの転移が判明しても、転移したがんが2ミリ以下のケースなどでは、リンパ節ごとがんを取り除く「腋窩リンパ節郭清(かくせい)」を省略できることもある。それ以上の場合、腋窩リンパ節郭清を行って治療すると同時にがんの転移の状態を調べ、どれくらい再発の危険性があるかを見て、術後の薬の治療選択の判断材料とする。
腋窩リンパ節郭清は、触診や画像検診などで乳がんが腋窩リンパ節に転移しているとわかっている場合に行われる。腋窩リンパ節郭清後には合併症や後遺症(腕がぱんぱんにむくむ、腕が上がりにくくなるなど)が起こるが、これらはセンチネルリンパ節生検のみのケースでは大きく軽減される。
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再建手術
乳がん治療の優先を前提に、乳房再建により、乳がん手術によって失われた乳房を新しく作り直すことができる(乳がん手術後に放射線療法を行う場合は、再建手術に影響が出ることもある。後述)。費用は保険適用で30万〜60万円程度だが、高額療養費制度を利用することで8万〜10万円程度になる(再建の方法によって異なるので確認が必要)。完全にもとの形に戻るわけではないが、乳房がなくなったことによる左右のバランスの悪さ、精神的な落ち込みなどの問題を改善できる。乳房を再建した後、患者が希望する場合は、形を整えたり乳頭を作ったりする追加の手術を行う。再建によってがんの再発リスクに影響が出ることはない。
手術は保険適用で、乳腺外科の担当医から引き継いだ形成外科医が行う。再建を行うタイミングや再建手術の方法にはそれぞれメリットとデメリットがあり、どのような乳房にしたいかということに加え、納得がいく方法を主治医とよく相談することが大切となる。
■再建の時期
・一次再建
乳がんの手術と同時に再建手術を行う一次再建は、乳がん治療を受ける病院に再建を行う形成外科があること、再発リスクや進行度などの面で一次再建が可能であることが前提となる。1回で手術がすみ(人工乳房による再建では2回。後述)、身体的・経済的負担がより少ないというメリットがある。患者にとっては、乳房がない時期を経験しなくてすむこともプラスとなる。一方、再建でどのような乳房にするか、十分に検討する時間を持てないこともあり得る。手術の方法によっては入院期間が延びる可能性もある。
・二次再建
乳がんの手術とは別に行う再建手術を二次再建と呼ぶ。乳がん治療を受ける病院に形成外科が併設されておらず、一次再建を受けられなかった場合や、手術後に放射線療法や化学療法が続くため再建手術を受けられないとき、一次再建でのデメリットを補いたいときの選択肢となる。放射線療法や化学療法を行わない場合は乳がん手術後すぐに二次再建が可能。放射線療法や化学療法が終わった後であれば、数十年後でも患者が希望するタイミングで手術を受けることができる。また、ホルモン療法中のみであれば、治療中でも再建を行える。
■再建の方法
・自家組織再建
3つの方法(腹直筋皮弁法、穿通枝皮弁法、広背筋皮弁法)があり、自分の腹部や背中など自分のからだの組織を移植して乳房を作る。温かさや柔らかさなどの点で、人工乳房より自然な仕上がりになるが、下腹部や背中に傷が残るほか、術後の痛みなど、からだへの負担がある。また、人工乳房による再建よりも手術時間は長く、4〜8時間程度かかる。入院は2週間程度必要。
①血管がついたままの腹部の皮膚、脂肪、筋肉を移植する「腹直筋皮弁法(ふくちょくきんひべんほう)」は、比較的大きめの乳房の再建に適している。再建を行っている形成外科の多くで可能だが、腹筋が弱くなるため、妊娠・出産を希望する場合や腹部の手術を受けたことがある人には適していない。30センチ程度の傷痕が残る。