②筋肉を残し、血管がついたままの腹部の皮膚、脂肪を移植する「穿通枝皮弁法(せんつうしひべんほう)」は、比較的大きめの乳房の再建に適している。高度な技術が必要であり、行える医療機関が限られている。太ももの組織を使うこともある。手術時間は、腹直筋皮弁法より数時間長くなる。妊娠・出産を希望する場合には適していない。30センチ程度の傷痕が残る。
③背中の組織を移植する再建「広背筋皮弁法(こうはいきんひべんほう)」は、乳房が比較的小さい人に適している。背中に15センチ程度の傷跡が残る。将来、筋肉が萎縮して、再建した乳房が小さくなることがある。腹部の組織の移植は一度しかできないが、広背筋皮弁法は、反対側の乳房に乳がんを発症し、手術した後にも再建に使える。妊娠・出産を希望している人、腹部の手術を受けた人でも受けることができる。
・人工乳房による再建
人工製の乳房(インプラント)を胸に埋め込んで乳房を作るため、自家組織による再建より手触りが少し硬い。
乳がん手術の際の切開痕から手術するため、再建による傷はできない。手術は2回行われ、1回目の手術では皮膚を広げる「ティッシュ・エキスパンダー」という水の入った袋を胸部に入れ、袋の中に生理食塩水を注入してふくらませる。その後、何回かに分けて数カ月かけて生理食塩水を追加で注入し、2回目の手術で人工乳房に入れ替える。手術時間は1回目、2回目とも30分〜1時間程度でからだへの負担が少なく、入院は数日程度。人工乳房の寿命は10〜20年とされ、破損がないかどうか確認するため、再建後は1〜2年ごとの受診が必要となる。
注意点として、エキスパンダー挿入中に感染症が起こったときエキスパンダーを除去することが必要になる、手術していない側の乳房が下垂したときにバランスが悪くなる、エキスパンダーに金属が入っているため、挿入している間はMRIを受けられない、などがある。また、放射線療法後には皮膚が弱くなったり、伸びにくくなったりするため、人工乳房による再建は難しい場合があるとされる。
薬物療法
浸潤がんの場合に選択される薬物療法において、化学療法(抗がん剤)、分子標的療法、ホルモン療法の3つをどのように組み合わせるかは、がんのステージ、サブタイプなどによって判断される。手術後の薬物療法の目的は、全身に潜んでいる可能性があるがん細胞にはたらきかけて、再発率・死亡率を低下させることにあるほか、手術前にはがんを小さくし、手術の負担を軽減する効果も期待される。遠隔転移を伴うステージⅣでは、症状を緩和してQOL(Quality of Life、生活の質)を向上させる。
一般的に、薬物療法による治療は外来で行われる。副作用を抑えるような薬が処方されるが、症状の出方には個人差があり、つらいときは我慢しすぎず、主治医に相談すること。
■化学療法
手術前後では抗がん剤を使って、がん細胞を直接攻撃して死滅させる。基本的に作用の違う複数の抗がん剤を組み合わせて、3〜6カ月かけて投与する。乳がんに対する効果は比較的高い一方で、吐き気、嘔吐、脱毛、倦怠感などさまざまな副作用が見られるが、近年は副作用を抑える処方をすることで、かなり軽減されている。脱毛には治療後に再び髪が生えてくるまでの間、ウィッグや帽子などで対処することができる。頭皮冷却により脱毛を予防する試みも行われている。
■分子標的療法
がんのサブタイプでHER2が陽性の場合は、がん細胞を増殖させる分子をねらい撃ちする分子標的薬(抗HER2薬)を化学療法に併用し、約1年間かけて投与する。また、再発・転移したがんや遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC:hereditary breast and ovarian cancer syndrome)に使用するタイプの分子標的治療薬もある。副作用は軽いと言われるが、多様な症状が出ることがわかっており、対処が必要となる。
■ホルモン療法
がんのサブタイプでホルモン受容体が陽性の場合は、手術後に単独で、または抗がん剤や分子標的治療薬の後からホルモン剤を投与し、がん細胞の増殖に関わる女性ホルモンのはたらきを抑えて、再発を予防する。治療期間は約5~10年間。抗がん剤と比較すると、副作用は軽いと言われるが、ほてり、のぼせ、発汗、血栓症、気分の落ち込みなど、更年期に似た症状が出るため、治療期間中に対処することが必要となる。閉経後の薬では、骨密度の低下、関節のこわばりが出ることもある。
放射線療法
局所に放射線を当て、手術では取り切れなかった微小ながん細胞を死滅させるために行う治療で、放射線専門医が担当する。主に乳房部分切除手術後に行われるが、リンパ節転移が4つ以上など再発リスクが高いときには、乳房全切除術後でも選択される。また、手術が難しい進行がんや再発・転移の場合は、痛みをとるなどの症状緩和のために行われる。
手術後に行う放射線療法では、からだの回復を待って手術から約1カ月後(遅くとも20週以内まで、できるだけ早く行うことが望ましい)から、外来で1日1回につき1~3分程度の放射線照射を週5日、5週間程度かけて行う。化学療法が必要な場合は化学療法を先行する。
主な副作用は放射線を当てた場所の皮膚が赤くなる、かゆくなる、ひりひりするなどの症状で、治療終了後2週間程度で収まる。まれに、放射線療法を終えて数カ月〜数年後に副作用(晩期副作用)による肺炎が起こり、咳、微熱の持続、息苦しさや倦怠感、胸の痛みなどが生じるが、適切な治療を行えば治癒する。
放射線療法は、妊娠中だったり、過去に同じ部位への放射線療法を受けていたりする場合は選択できない。放射線を当てた側の乳房からは授乳機能が失われるが、当てていない側の乳房で授乳することが可能。