プロゲステロンは、女性にとって半分異物である受精卵が、異物と認識され排除されないよう、免疫を寛容にする作用を持っている。また、エストロゲンによって増えた子宮内膜をさらに厚くし、受精卵の発育に必要な水分・栄養素を溜め込めるようにする他、プロゲステロンによって排卵後のおりものは、それまでのさらさらした状態からネバネバした状態に変化し、子宮口に蓋をして、新たな精子や腟からの雑菌が子宮に侵入するのを防ぐ。この間、エストロゲンも子宮内膜の増殖に作用し続け、受精卵着床の準備を整える。
排卵によって卵巣の外へ飛び出した直径80マイクロメーター(0.08ミリメートル)の卵子は、イソギンチャク状の卵管采(らんかんさい)によって卵管内に吸い上げられる。卵子は卵管の筋運動と繊毛(せんもう)運動により5〜7日かけて子宮に運ばれていく。子宮内膜はその頃までに7〜13ミリメートルの厚さになる。
卵管膨大部(卵管采の先にある卵管の入り口)で受精が起こらなかったり、受精卵が子宮内膜に着床しなかったりした場合は、黄体はしぼんで白体(はくたい)という状態に変わり、排卵から10〜14日後には消滅する。それによりプロゲステロンとエストロゲンが急速に低下し、子宮内膜に栄養を与えていた血管に変化が起きて、子宮内膜がすべて剥がれ落ち、血液や子宮体組織液とともに経血となって子宮口から流れ出ていく。これが月経であり、月経によって子宮内膜は定期的にリセットされる。経血に含まれる血液の量は1割程度で、通常は凝固せずサラサラしている。月経1回あたりの経血量は20〜140ミリリットル。月経初日は少なく、2日目にピークがきて、3日目以降徐々に減っていく。多い日で1日30ミリリットル程度だが、経血量やピークの時期には個人差があり、そのときの体調等によっても変わる。
「よく『生理は病気じゃない』と言われますが、日常生活に影響するほど重い月経痛などの症状は『月経困難症』という病気として診断されます。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん。血液の巡りをよくする効果がある)などの漢方薬で症状が軽くなる人もいますし、すぐには妊娠を考えていない人で重い月経痛に悩んでいる場合は、低用量ピルという選択肢もあります。低用量ピルには避妊薬のイメージも強いですが、今は月経痛のコントロールや子宮内膜症の治療などに使われるのが一般的で、副作用もほとんどなく、保険も適用されています」(西先生)
〈基礎体温〉
基礎体温とは、生命維持のために必要な最小限のエネルギーのみを消費している心身ともに安静な状態、つまり睡眠中の体温のことで、目覚めた後、活動を始める前に計測する。男性の基礎体温が一定であるのに対し、月経周期の後半に分泌量が増えるプロゲステロンには体温を上げる作用があるため、女性の基礎体温は月経周期の前半と後半で低温期と高温期に分かれる。
基礎体温を測ることで月経周期のリズムや排卵時期を知る目安になる。そのため、婦人科を受診するときや不妊治療を受ける際には基礎体温表を求められることが多い。
高温期と低温期の温度差は約0.3〜0.6℃とわずかなことから、基礎体温を測るときは専用の婦人体温計を使用し、朝目覚めたら起きる前に舌の下で測る。基礎体温を記録するアプリは便利だが、紙に記入する基礎体温表にも月経周期の特徴を把握しやすいメリットがある。
月経が始まって約2週間(卵胞期)は36.5℃以下の低温期が続き、排卵を境にプロゲステロンの作用によって体温が上昇し、この高温期は約2週間続く(黄体期)。妊娠しなかった場合はプロゲステロンの分泌量が急減することによって体温が急降下し、次の月経が始まる。低温期が3週間以上続く場合は排卵が起きておらず、高温期が3週間以上続く場合は妊娠している可能性がある。ただし、低温期と高温期はきれいに二相にならないことも多いため、心配な場合は自己判断せずに専門家に相談すること。
「基礎体温表は後から見て『この頃に排卵していたね』『高温期が3週間以上続いたから妊娠したかも』ということがわかるもので、基礎体温だけで排卵日を予測するのは無理があります。基礎体温から『この辺なら安全だろう』と避妊の目安にすると失敗する確率が高いですから、コンドームなど他の方法と必ず併用してください」(西先生)